しあわせうさぎのおはなし



 ぼんやりとした意識の中、ぼくは真っ白な空間にいることに気が付きました。どうやら、ぼくは夢を見ているようでした。あの後、泣き疲れていつの間にか眠ってしまっていたのでしょう。何もない空間を、ぼくはひたすら歩きました。
 しばらく歩いていくと、不意に人影が現れました。
「え」
 ぼくは自分の目を疑いました。
「くーちゃん?」
人影が振り向くと、それは紛れもなくくーちゃんの姿でした。
「プランタン……」
 その瞬間、体中の綿が重い泥水を吸ってぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような、ぐるぐるとした感覚に襲われました。なんでぼくを捨てたのなんでぼくたちずっと一緒だったのにどうして置いてくのねえ何とか言ってよずっとずっと一緒にいてくれるって言ったのにぼくのこと大好きだって言ってくれたのにどうしていらないなんて言うのひどいよひどいよずっとくーちゃんと一緒にいたかったのに、ずっとすきだったのに……。
 言いたい言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡り、声にならずに消えていきました。いろいろなことを言いたかったはずなのに、全部、胸の奥へ溶けるように消えていきました。
< 13 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop