甘いケーキは恋の罠



何だか良い気はしなかった。


気になる男性が親しげに自分とは別の女性とまるで自分が居ないかのように会話を弾ませているのだ、愉快なはずがない。


一向に止むことのない会話に耳を傾けていると、どうやら2人はどこか別の場所に行ってしまうようだった。


――ああ、なんだか着る服に迷ったり、メークに時間をかけたのが馬鹿みたい。


自然と俯いてしまう。


そっと匠さん達に背を向けると下りのエスカレーターに向かって歩き出す。


すると腕を掴まれ、強い力で後ろに引かれる。


そのまま相手の懐へと倒れ込むと、そっと耳元で囁かれる。


「僕を置いてどちらへ行かれるのですか?」


低く、擦れた声が鼓膜を揺らす。



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