脱力系彼氏
 あたしはお母さんを目で見送った後、ガクガクする腕で身体を起こした。座ると、痛々しい自分の姿が見える。

冴子に視線を戻すと、泣きそうになってしまった。冴子が真剣な顔で、泣きそうな顔をしていたからだ。

「あんた、あんま心配かけんじゃないよ。連絡来た時、あたし、てっきり死んじゃったのかと思ったんだからね……」

よく見ると、冴子は目が兎みたいに真っ赤で、髪もぐちゃぐちゃだ。飛んで来てくれたのだろう。今日だって、学校があるっていうのに、冴子は制服を着ていない。きっと、学校に行かず、一晩中、付き添ってくれていたんだ。

それだけで、泣きそうになる。

「……ごめん」

「泣かされるような事があったんなら……呼べよ、馬鹿。あたしがあの男、殴りに行ってやる」


あの時、冴子がいなくてよかった。

あの女の人がいるにも関わらず、冴子は、きっと昇ちゃんに2発目のビンタをお見舞いしていただろう。

「冴子、ごめんね」


あたし、こんなに良い友達を、置いて逝きそうになってた。


「謝って済むか、この馬鹿! ……あたしにも、頼れよ……」

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