脱力系彼氏
「冴子ちゃん、そろそろ帰っていいのよ。疲れたでしょう」

お母さんが猫撫で声でそう言うと、冴子はチラリとあたしを見た。

「ああ、じゃあそうしようかな。綾も、ようやく起きたし」

「うん、そうしてちょうだい。冴子ちゃんのお母さんも心配するだろうから」

冴子は小さくはーい、と言って、あたしのベッドの横にある鞄を取った。

「じゃあ、あたし、帰るわ。明日も、来るよ」

「うん、ありがとう」

冴子はいつもどおりあっさりと「じゃ」と言って、後を濁さずに去って行ってしまった。急に静かになったような、そんな感じがした。


「冴子ちゃん、昨日の夜からずっと寝てないのよ」

お母さんはベッドの横の台にパジャマのような服を置いた。

「来た時はもう真っ青な顔で、お母さんまでびっくりしちゃった」

淡々とそう言うのを聞いて、あたしも同じようにそれを聞くけれど、到底、そんなの想像出来ない。余計に、胸が詰まる。

「あ! 綾、コレ」

お母さんは思い出したように、紙袋からあたしの携帯を取り出した。

「あ、ありがと」

「家に忘れていって正解だったわね。持って行ってたら、今頃ぐっちょぐちょに壊れてたんじゃないの?」

あたしは、病院なのに携帯なんか使っていいのか、と、複雑な気持ちになりながら、お母さんから携帯を受け取った。
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