脱力系彼氏
 お母さんは、紙袋からいろいろ必要な物を取り出しては、次々と引き出しに詰め込んでいく。
携帯を開いて、着信履歴を見たけれど、昨日の着信は全部、冴子だった。昇ちゃんからの連絡の形跡は、全く無い。

「ね、お母さん」

「何?」

お母さんは視線をこっちにやる事もなく、せかせかと荷物の整理をしている。

「昇ちゃんは?」

お母さんは、一瞬動きを止めて、眉を顰めた。

「昇ちゃん? 誰、ソレ?」

「……彼氏」

あたしの返事を聞いて、お母さんは止まっていた手をまた動かし始めた。

「知んないよ。それよりあんた、彼氏なんかいたの?」


そっか。昇ちゃんからすると、あたしは、彼女なんかじゃなかったのかもしれないんだ……


「……分かんない」

あたしが小さくそう言うと、お母さんは、「何ソレ」と言って、笑った。

「それにしても、骨折したのが今の時期でまだ良かったわね。もうすぐ夏休みだし、学校休まなくて済むじゃないの」

あたしは小さく溜め息を吐いて、そっとベッドに寝転んだ。少しだけ、感覚のない足が痛んだ気がした。

「良くないよ。夏休み、丸潰れじゃん」

「いいじゃないの、どうせ遊び散らすだけでしょ」

ああ。もう、何を言ってもダメだ。
あたしは口を閉じて視線を泳がせた。

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