脱力系彼氏
「あ、さっきね、相手の運転主から電話あったよ」

「相手の運転主?」

眉が顰まる。お母さんの話は、たまに唐突過ぎて、何の話か分からないのだ。

「ぶつかってきた車の運転主。飲酒運転だったのよ」

そうだったんだ。だから、あんな物凄いスピードだった訳か。

「で、その人が何だって?」

「朝まで病院にいたんだけどね、あんたの怪我が骨折で済んだから、連絡先を置いて仕事に行ったのよ。綾が起きたって言ったら、明日もう1度謝罪に来ますって」

「ふーん」

別に、謝られても嬉しくない。
さらさら興味はなかったけど、一応「どんな人?」と聞いておいた。

「普通のサラリーマンかなんかでしょう。 若い男の人」

「ふーん」

引き逃げされなかっただけ、まだマシか。

ぼんやりしながら、目でテレビのリモコンを探した。

「来ても、怒らないであげてね。冴子ちゃんったら、あんたの代わりに病院に来た途端、いきなり殴り倒したんだから」

「……えっ?!」

慌てた視線が、お母さんに戻る。一瞬、心臓が浮いたような気がした。

「思いっきり飛び掛かって……、お父さんが慌てて止めたんだけどね」


……冴子、どこまで過激なんだ!

嬉しいというよりも、可笑しくて、笑ってしまった。

「相手の人も凄く反省してたから……明日来ても、怒らないであげてね」

「分かった」

空返事をして、何気なく額を擦る。額には絆創膏が貼ってあって、頭には包帯が巻いてある。気にし始めたら、やっぱり痛いかな、なんてぼんやり思った。
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