脱力系彼氏
 冴子が帰った後はやけに静かで、付けたテレビの音も全く耳に入ってこなかった。気がつけば、もう、空は暗くなっていて、あたしは軽く放心状態に近くなっていた。

何気なく携帯の時計を見たら、もう面会時間は過ぎていた。そういえば、飲酒運転の運転主は来ていない。所詮、若い人なんてそんなものか、なんて呆れながら、あたしはベッドに寝転がった。

昇ちゃん、どうして停学になっているんだろう。

信じられない事を聞いて、あたしは心配で仕方が無い。

やっぱり、昇ちゃんはあたしの中では大き過ぎて、昇ちゃんを忘れるには時間が必要みたいだ。いや。忘れるなんて出来ないかもしれない。この傷は、おばあちゃんになっても、忘れられないかもしれない。

別に、付き合ったのが初めてだった訳じゃない。別に、ファーストキスを捧げた訳でもない。

昇ちゃんは、あたしの記憶の中では1番少ない時間を過ごしていたはずなのに、1番濃くて、1番、愛しい。

昇ちゃんが1番あたしをドキドキさせて、1番、あたしを不安にさせた。1番、あたしを悩ませて、きっと、1番、あたしの気持ちを揺らした。

ただ、それだけの事じゃないのかな、と思う。

今も、心配で、不安で堪らない。

昇ちゃんがあたしを好きじゃなくても、あたしの頭からは、全然離れてくれない。


ダメだ。今すぐ聞きに行きたいのに、足が折れちゃってる。


ねぇ、昇ちゃん。


何があったの……?

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