淫らな月
彼との
彼を初めて見たのは亡くなった母の墓地だった。
私の母は私が幼い頃に亡くなっている。
優しく美しかったという思い出だけ残して・・
私は何か耐えられないことがあったとき母のお墓に来て話をする・・
誰かに聞いてほしい・・話したい・・
私にはそんな相手もいない・・
母が生きてれば私ももっと違っていたかもしれない・・
その日も昨日,兄に言われたことが・・けもののように抱き合う男女の様子がショックで墓の前で泣いていた
「お母さん・・私はとうとう初潮をむかえてしまった・・
嫌で嫌でこなければいいと思ってたのに・・
昨日餌場にお兄さんに連れて行かれた・・あんなこと・・
あんなこと・・
お兄さんが満月の夜は私を抱くと言った・・嫌だ・・
好きな人とするものでしょ・・私にはいない・・初めては好きな人としたい」

ひとしきり泣いていると遠くで車の音がした・・
珍しいこんなに朝早く・・
今は夏・・キリスト教の墓地に訪れる人がいるなんて・・

いけない・・私・・そのままできてしまった。
人里離れたこの墓地は私たちの住処から少し離れているが
小高い丘にあるので誰にも会わない・・

私はいつも赤い髪を隠すために黒いカツラを・・
赤い眼には黒いカラーコンタクトと眼鏡をしていた・・
油断した・・姿を見られるわけにはいかない・・
私は少し離れたところにある高い木に登った。

遠くを見通せる眼を持つ私は木の上から新たな訪問者を観察した。
それは父親と子供だろう・・
父親らしき人が四角い木の箱を持っている。

亡くなったばかりの人の骨をお墓に埋めるのか?
子供のほうを見た・・
年は私と同じぐらいか・・少し年上の男の子・・
遠目でもスタイルがいいのが分かる・・
歩く姿が優雅で品がある・・
顔は?なんて綺麗なんだろう・・眩しそうに上を向いた・・
眼が青いの?髪も黒くてさらさらしてそう・・
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