雪の果ての花便り
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彪くんが〈ZinnIA〉で働く最後の日。柚に宣言した通り、コーヒーブリュレを食べに行った。
私は彪くんと暮らしていた時、いつも通り常連として顔を出していたけれど彪くんに会うことは当然なかった。
この日も同じだった。
これから先も二度と会うことはない。
けれど私はこれからも〈ZinnIA〉に通い続けると思う。そしてコーヒーブリュレを食べるたびに大好きだった彼を思い出し、頬をゆるめ、ちょっとだけ寂しくなるのだろう。
街のそこかしこに残っていた雪は季節が移り変わる速度で溶けてゆき、気付けば見当たらなくなった。
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先週の暖かさが嘘のように、風は強く、冷たい。
季節の変わり目というのは、どうにも体調を崩しがちになる。朝食にスープを付けるのはまだ必要のようだ。
といっても私は特別料理が得意というわけではないので、手軽さを重視したインスタントスープを会社帰りにスーパーで買った。
ナイロン素材のエコバッグが歩くたびにポンチョと擦れ合い、かさかさと音を立てる。
アパートの駐車場に入ったところで、ふと足を止める。
「……、雪?」
一瞬雪虫かと思ったが、本来は雪が降りだす時期に現れるものだ。
仰いだ夜空の向こうから、触れればすぐに溶けてしまいそうな雪が落ちてくる。
明日は春分の日だというのに。
去年は4月にも雪が降ったから驚きはしないが、さすがに3月下旬になれば降らないものだと思ってしまう。
まだ冬が続くのではないかと錯覚してしまいそう。それが願いになる前に、空から視線を外した。
変わらないな、私は。これじゃあ去年の私と一緒じゃない。
目を伏せて自分を嗤った私は外階段を目指す。
春先のフランスでは稀に薄紅色の雪が降ることを、彪くんは知っているだろうか。