雪の果ての花便り


「おねーさんがあの夜『後悔しようがない』って言ってくれたから、すぐに帰って妹を見つけて親を説得しようと思った。そしたら絶対戻ってこようって決めたんだ。だから、受け取ってよ」


もう一度差し出されたボストンバッグには、幸せが詰まってるように思えた。

受け取れば、こんなんじゃ足りないと欲張ってしまったのだけれど。


……うそみたい。夢みたい。妄想だったらどうしよう。


泣きそうになっている私は現実にいるのに、目の前にいる彪くんは幻じゃないかと思っている私の思考回路は、柚の言う通り理解され難いものなのかもしれない。


「好きです……」

「えっ。すごい、意外」

「意外ってなんですかあー……」


はらはらと涙を流し始めた私に彪くんは、

「だっておねーさんって慎重だから、そう簡単には聞けないと思ってた」

なんて、私の涙を止めることを言う。


「あ、でもおねーさんってけっこう無防備だよね」

「……ひと目惚れした相手を警戒しろって言うんですか」


彪くんは一度は丸くさせた目に喜悦の色を浮かべ、頬をほころばせる。


「やめてくださいって言っていた人の台詞とは思えないね」

「そっ、れは……」


彪くんの指先が耳のうしろに触れる。キスをされるのかと思ったのに、触れ合う寸前まで近づいてきた唇は「今はやめとこう」と独白をこぼした。


なんて人だろう。今でもよかったのに。


彪くんは体を引き、私の手を取ると外階段を上り出した。私は魔法の手をぎゅっと握り返し、鍵を用意する。


「ただいま」と玄関口を通過すれば、続いて彪くんが「おじゃまします?」と首を傾げた。


伝えたいこと、もうひとつあった。


ものすごく言い辛いし、言わなくてもいいことかもしれないけれど……。
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