奴隷戦士
その後、ぼくはおっさまに言われた通り、3日に1回はお経の時間をとった。
そして、道場で「寺に学問を教えてくれる人が来る」という話をしたら、学びたい人がたくさんいて、教師が来る日は道場のほとんどの人が寺に行った。
「なんで勉強するの」
隣に座った剣をする子に聞いた。
紙に書いているペンを止め、きょとんとぼくを見た。
なぜそんなことを聞くのか、と彼の顔に書いてあった。
「どうしてそんなに学びたいの」
ぼくにはみんながここで熱心に学ぶ理由が分からなかった。
「え、だって誰かにこの世界のことを教えてもらえるなんて、そうそうないじゃん」
彼は目を輝かせた。
「どうやってこの国ができたか、太陽はなぜ沈むのか、どうして水は透明なのに海は青いのか。不思議だと思わなかったか?あの教師って人はそれを知ってたんだ」
すごいよなあ、もっと知りたいんだと彼はニカニカと笑った。
でもぼくは興味がそこまでなかった。
それを気にしたことがなかった。
それを気にするほど、暇じゃなかった。
「それに世界を知ると、ここの生活から抜け出せるかもしれないだろ」
「え」
「だってさ、こんなん教師が来なくて、知らなかったら、おれはずっとここにいて、オトンがする空き缶集めの仕事をやんないといけなかったんだ。そんなのゴメンだね」
そこで初めて、彼に父がいたことを知った。
「でもこの知識があれば、それ以外のなんだってできると思わないか?」
彼はぼくよりずっと遠くを見ていた。
同じ場所に立っているのに、見ている景色は全く違うようで、先のことを考えていて。
ぼくはおいて行かれた気がする。
そして彼は、ぼくらが住んでいるところよりも、文明が栄えているところからきている教師は、そこで生活する人で、自分が文明が栄えているところへ行っても恥をかかないように学ぶのだ、とも言った。
そして、彼はここから出ていく予定なのだと言った。
「…がんばって」
「おう!」
ぼくはそれしか言えなかった。
ぼくはこの先のことを何も考えていない。
今まで通り、道場へ通って、寺に帰って、次の日にまた道場へ通って、寺に帰る。
そんな生活をずっと続けていくのだと思っていた。
自分がこの先どう生きていくかだなんて、これっぽっちも考えていなかった。
ここに来ている人たちはみんな、そんな先のことを考えているのだろうか。
またさらに一つ、おいていかれて、少し悲しくなった。
そういう選択肢もあるのだと思って、ぼくもがんばって教師の話を聞くようにした。
だけど本当に、何を言っているのか全く分からない。
同じ言語のはずなのに、理解ができない。
最初は本当に何を言っているのかさっぱり分からず、教師が帰ったあとはひたすら鷹介に教えてもらった。
そうしているうちに、三か月経った。
今までぼくは教師から逃げていたから鷹介がどれだけすごいのか、まったくわからなかったけれど、ようやく理解した。
彼は本当に頭がよく、教師が突然、問題を出しても完璧な答えを返した。
逆に、鷹介が教師に質問をして教師が「分からない」と答えるほど。
彼は思慮深い人だった。
前に鷹介と一緒に寺から逃げて夜に帰ったとき、おっさまがぼくより鷹介を心配するのが分かった。
ぼくとは出来が違うから。
いなくなったら困る方を心配するのは当たり前だった。