奴隷戦士
「お前さん、それ恋だと思うんだ」
「…コイ?」
夏になって、昔よく鷹介と一緒に行っていた川で、知らない人と話していた時だ。
「おっちゃんもぼくみたいになったことあるんだ…だからおっちゃんこんなに生臭いわけ?」
「おい、ガキ。せっかく助言してやってんだから、生臭い青魚と扱い一緒にすんな」
思わず自分の鼻をつまんでしまったぼくに、おっちゃんは真顔で答える。
そもそも何故、ぼくが小さい頃行っていた川で知らないおっちゃんと話をしているかというと、ほんの小さな出来事があったからだ。
いつもある剣の稽古が、たまたま今日は中止になった。
なんでも、年に一度の師匠同士で話をするらしい。
それが今日あるから、今日の稽古は中止らしい。
なんとなく、寺での居心地が悪くて、川へやってきた訳だが、どうもムシャクシャしていて、誰もいないと思い、思わず地面に落ちている石を拾って「死ねェッ!」と大音量で叫んだ直後に石を川へ投げ込んだ。
すると思ってもみなかった。
「痛えな!こんなんで死ぬかよ!」
と、川の方から返事とぼくが投げた(と思われる)石が返ってきた。
吃驚して「うわ、人いたのかよ!わ、ほんとに人がいる!大丈夫!?人間!!?」なんて、思ったこと全部言ってしまっていたのである。
下に降りて謝ったのはいいが、そのままぼくは説教を延々と聞かされ、しまいには「何か悩んでいるんだろう?そんな顔してら」とまで言われ、それに乗せられたぼくはあろうことか知らないおっちゃんに今悩んでいることを言ってしまったのだ。
何やってんだろな、ぼく。
そもそも悩み持ってそうな顔って?
そんな話をしていて、いつの間にか蜩が鳴いており、夜の帳が降りてきていたので、おっちゃんとは別れ、ぼくは寺に戻った。
全く、知らない人とあんなに話し込むなんて考えてもみなかった。
なんなんだ、あのおっちゃん。
結局、彼は解決法は教えてくれなかった。
だけどコイとやらがどういうものなのかは教えてくれた。
だけど、イマイチ理解に苦しむのでここでは割愛しておこう。
まぁ、今のぼくの状態が一番理解に苦しむ。
なんて、そんなことが日常化し始めてそれに慣れはじめた頃。
セミの鳴き声にも慣れ、だんだんと朝と夜が肌寒くなってきた頃に、ぼくは初めてやらかしてしまった。