奴隷戦士


そんなことがあった僅か三日後。


それは起こった。


その日は稽古が終わった後、仲間と他愛もない話をしている時だった。


今日は師匠とその奥さんが一緒に出掛けていたから、道場には大人がいなかった。


「なーなー、お前さー、紐紫朗ー、いつから花ちゃんとそんな関係になったわけ?」


「「えっ!!?」」


花ちゃんと声が重なった。


「そこんところの話、聞かせろよ」


「それいいな」


「いや、俺は辛くなりそうだから帰る…」


なんて、ぼくと花のことを知りたがる奴もいれば、知りたくないといって帰っていく奴らもいた。


当のぼくは、そんな恥ずかしいことに耐え切れるわけもなく、飛び出し、走った。


「ちょっ、紫朗!もう、あんたたち!やめてよね!恥ずかしいんだからね!」


後ろで怒ったような、照れたような花の声が聞こえて、無償に幸福感があふれた。


「あ、紐紫朗!…え?」


走っていると廊下ですれ違った仲間に微妙な顔をされ、ぼくはそんな彼をあとにする。


「なんだあいつ、にやにやしてたぞ」


なんて声が後ろからきこえてきたけど。


結構ぼくは重症なのかもしれない。


バタバタ走って逃げて、月がよく見える縁側へ座った。


「まったく、ほんと男ってガキねー」


ふんっと鼻息を荒げて、花ちゃんはぼくの隣に座った。


いつの間に追いついたんだろう。


速いな。


「ぼくはガキじゃないぞ」


「あら、どうかしら。ガキじゃなかったらあの時、ここに逃げずに質問に答えているはずなんだけど…」


花ちゃんの言葉に「うっ」と言葉がつまった。


あははと彼女が笑う。


月に照らされたその横顔はとても綺麗だった。
< 33 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop