ビロードの口づけ 獣の森編
クルミはベッドの上に身体を起こし、両手を広げて呼んだ。
「ジン」
獣は後足で立って扉を閉め、振り向きざまにこちらへ駆けてくる。
ベッドに飛び乗った獣は、その勢いのままクルミを押し倒した。
ペロペロと何度か口元を舐めて、ゴソゴソと夜具の中に潜っていく。
中で反転した獣はクルミの上にのしかかりながら戻ってきた。
そして目の前に顔を出したジンは、有無も言わさず激しく口づけた。
暖かな腕に抱かれ、口づけに翻弄されながら、胸の中の不安は深まっていく。
満月が来たら、この腕は自分ではない誰を抱きしめるのだろう。
ジンは王だ。
人の王も世継ぎを得るために側室を何人か抱えていると聞く。
獣王に世襲はないと言うが、優秀な子孫を残すという目的のためには、頂点に立つジンが貢献しなくていいはずがない。
「どうした? うわの空だな」