ビロードの口づけ 獣の森編
貴族の娘として生まれたからには、家のために世継ぎを産む事が使命だ。
身体の弱い母は、クルミを産んだ時も大変だったらしい。
二人目を身籠もっている時、体調を崩して生死の境をさまよった。
それでも使命を果たしたくて、何より父に喜んでもらいたくて、どうしても産みたいと言う母に、父は産まなくていいと言い放った。
子どもを堕胎して母は一命を取り留めたが、二度と子どもが産めなくなった。
父の言葉を母は、女として、妻として価値がないと言っているように受け取ったらしい。
その後、家にいる時間が少なくなっていく父に、いつ離縁を言い渡されるか気が気ではなかったようだ。
実際には父が家にいる時間が少なくなったのは、約束の日のせいなのだが。
「奥様はあんたにも少し妬いていたぞ」
「え?」
「旦那様が過剰なほどにあんたを大切にしていたからだ」
そんな事は全く気がついていなかった。
母は寝込む事が多いので、顔を合わせる事も稀で、身体に障ってはいけないと思い、クルミは部屋を訪れる事も控えていたからだ。