ビロードの口づけ 獣の森編


 貴族の娘として生まれたからには、家のために世継ぎを産む事が使命だ。
 身体の弱い母は、クルミを産んだ時も大変だったらしい。

 二人目を身籠もっている時、体調を崩して生死の境をさまよった。
 それでも使命を果たしたくて、何より父に喜んでもらいたくて、どうしても産みたいと言う母に、父は産まなくていいと言い放った。

 子どもを堕胎して母は一命を取り留めたが、二度と子どもが産めなくなった。

 父の言葉を母は、女として、妻として価値がないと言っているように受け取ったらしい。
 その後、家にいる時間が少なくなっていく父に、いつ離縁を言い渡されるか気が気ではなかったようだ。

 実際には父が家にいる時間が少なくなったのは、約束の日のせいなのだが。


「奥様はあんたにも少し妬いていたぞ」
「え?」
「旦那様が過剰なほどにあんたを大切にしていたからだ」


 そんな事は全く気がついていなかった。
 母は寝込む事が多いので、顔を合わせる事も稀で、身体に障ってはいけないと思い、クルミは部屋を訪れる事も控えていたからだ。

< 47 / 115 >

この作品をシェア

pagetop