モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
結局、その日は病院に泊まることになった
病院側も事件を知っての配慮だった

次の朝
美雨は一人でアパートに帰るつもりだった
夕べ、美登が帰り際に明日、迎えに来ると言っていたが、美雨自身、今仕事が、立て込んでいるのを知っているので、一人でさっさと帰ろうと決めていた

これ以上、美登に迷惑を掛けるわけにはいかないからだ。病室で、美登にその旨をメールで送ったところ、丁度、病室のドアが開いた

入ってきたのはーーーー





岡崎だった

「間に合って良かったよぉ」

相変わらずの軽い調子で言ってくる岡崎に美雨は戸惑った

「あの…」

「ん?お目当ての彼じゃなくてガッカリした?」

「いえ、そんなこと…」

「市民の安全を守るのが警察の仕事ですからね、口説こうとか下心はありませんので!」

と、わざとらしく敬礼をする岡崎に美雨は少し笑った

「良かった。笑える元気があって少し安心しました」

岡崎はそういうと、病室のドアを開け、美雨を誘導した

岡崎の覆面パトカーに乗ると、美雨のアパートには行かず、美雨の知らないパン屋へと到着した

「あの…」

「ああ、ごめんね。実は張り込み明けでさ、何にも食べてないんだよ。美雨さんもですよね?付き合って貰えませんか?一応、勤務時間外なので、奢りますよ。ただの知り合いとして」

美雨は初めて岡崎に会ったときに抱いた印象がどんどん、変わっていくのがわかった

あの時、岡崎に対して抱いた気持ちを申し訳なく思うと同時に、岡崎に対してこれからはきちんと、向き合うと思った

ほんの少し、自分を恥じた

岡崎に連れて来られたパン屋は
イートインコーナーもあり
岡崎は珈琲を、美雨は紅茶を頼み
パンと一緒に食べた

「美味しいですね。ついつい。食べ過ぎちゃいそうです」

「たくさん食べ過ぎちゃってください。もう少し太らなきゃ、彼氏からクレームきますよ。抱き心地が悪いって…あっ、これ、セクハラ発言?」

「そうですよ、岡崎さん!それに私に彼氏はいません!」

言いながら、少し杜の顔が浮かんだ
杜は今回の事、聞いたのだろうか?
なんて、思っているだろうか?

「そう言いながら、今、好きな人の事思い浮かべましたね?」

「えっ?あ、その…」

美雨は岡崎の指摘に戸惑った

「昨日の彼ですか?たまたまとかって言ってたけど、彼はあなたのところへ行こうとしてたのかなぁって思ったんですけどね」

岡崎の問いかけに対して美雨は

「いえ、彼はーー村嶋さんは雇い主です
ただ、確かに好きな人を思い浮かべました」

美雨は意外にも鋭い質問をしてくる岡崎にありのままを話した。そうすることの方がいいと思ったから

「もしかして、まだ、真山さん…っと、突っ込みすぎだよね?あくまでも勤務時間外なのにね」

と、いい岡崎は珈琲にゆっくりと口をつけた

「いえ、不思議と真山さんへの思いはもうありません。もしかしたら、元々、そこまで好きじゃなかったのかさえ今は思うくらいです。恐らく、馴れない都会暮らしと仕事の中で、知らぬうちに真山さんに依存していただけなのかもしれません。今では感謝しています」

そう言いながら、少し躊躇った
いつかの、泥酔した真山を思い出したからだ
けれど、その事は今は、伏せておこうと
美雨は思うと大きなメロンパンを頬張った








「ご馳走さまでした」

「本当にアパートじゃなくて良かったのかな?」

美雨は岡崎にアパートではなく
事務所へと送って貰っていた

「とにかく、気になることは直ぐに言って
なるべく、夜間のパトロールを強化するように、所轄にも話し通しておくから」

そう、言うと岡崎は去っていった







< 80 / 165 >

この作品をシェア

pagetop