モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
「これで、最後です」
美雨は引っ越し業者に伝えた
結局あの日、病院から直接事務所へと、やってきた美雨は美登から部屋の事を提案された
驚いたものの、正直、美雨自身もあの部屋に戻るのは少し躊躇っていた
雑貨屋の襲撃といい、今回の事といい
そして、いつかの泥酔した真山を思い出すと
やはり、部屋を出ることがベストだと考えた
慣れ親しんだ、部屋を見渡す
ガランとして、何もない部屋をゆっくりと
ゆっくりと見た
上京したての頃や
真山と過ごした時間
そしてーーー
杜に抱かれた時の事をーーー
「もう、いいのか?」
杜の声にハッとする
美雨は一人で大丈夫と言ったものの
杜はいいからと言って引っ越しを手伝ってくれたのだ
相変わらずの無表情で、これといって会話もない。けれど、美雨はその無表情に隠された
優しさが少しずつ解るようになってきた
杜の手伝いのお陰で引っ越しもスムーズに終り
新しく美雨の部屋として用意してもらったスペースには沢山の段ボールが並べられた
「一人暮らしとは言え、女の子は荷物がおおいんだねぇ」
声に振り返ると、部屋の入り口に美登が立っていた
「美登さん、何から何までありがとうございます。本当に助かりました」
美雨は深々と頭を下げた
「美雨ちゃん、止めてよ。ほら、ちゃんと家賃だって貰うんだしさ、ねっ?ただ、戸締まりだけは、ちゃんとしなよ。同じフロアに最も危険人物がいるからね」
と、杜に視線を送る美登
杜は相変わらず、窓の外を見ていた
「美雨ちゃん、あらまし片付いたら言ってよ
この近くに実は旨い蕎麦屋が有るんだよ。出前取るから一緒に食べよう、引っ越し蕎麦」
「ありがとうございます。取り敢えずの分だけ片付けます」
美雨は美登の優しさに心から感謝していた
そして、杜に対してもそれは同じであった
それから、数週間が立ち、年も明けた
美雨は年末年始をゆっくりと実家で過ごした
両親に仕事のことや引っ越しの事も話した
父親の何を聞くでもなく「そうか」という一言に救われ、母の「しっかり食べなさい」といって出される手料理に心から元気付けられた
自分は愛されて育ったのだなと、改めて感じた
実家から戻り、杜の部屋へお土産を渡しに向かうと留守だった
美雨は迷わず最上階のアトリエへと向うと、杜はそこにいた
杜は大きな窓際で椅子に座り眠っているようだった
やはり、杜の寝顔は美しかった
やわらかく、普段の刺々しい雰囲気もなく
それは、いつまでもいつまでも
こうして見ていたくなるような寝顔だった
美雨は無意識に手を伸ばしていた
美雨の手がゆっくりと杜の頬へと伸ばされる
その手が軽く触れたと同時に
美雨の手は杜に掴まれた
「ご、ごめんなさい…」
「帰ったのか?」
「えっ…ええ、そうなの…」
美雨の手はまだ掴まれたままだった
「あの…その…ごめんなさい。寝てる所を起こしちゃって…手を…」
「起きてたよ」
「へっ?」
「あんたが入って来たときから起きてた」
「う、うそ…」
「本当」
と言って杜は立ち上がると美雨を抱き寄せた
「…きゃっ」
美雨の肩に杜が顔を埋める
「あんたの匂いがする。落ち着く…」
美雨は驚くほど早く動く心臓の音が聞こえないだろうかと心配しながらも
杜の温もりをゆっくりと感じた
どれくらい、そうしていただろうか
不意に杜が言った
「出掛けないか?」
思いがけない、杜の誘いだった
二人がやって来たのは、少し郊外にある公園だった
「知りませんでした。一ノ瀬さん、車の運転されるなんて…それに車も持ってらっしゃたんですね」
美雨が思ったままの事を言うと
「免許は美登が取れっていうから。車は美登の会社の。自由に使える。あと…杜、杜って呼べよ…」
ぶっきらぼうに言うと、さっさと歩いて行ってしまった。美雨は少し微笑むと
「杜さん、待ってくださいっ。そんな先にどんどん行かないでください!」
そう言いながら駆け寄った
その声を聞きながら杜が微笑んでいることに気づかずに…
ただ、何をするでもなく
会話が有るわけでもなく
時折、持ってきていたクロッキー帳に
杜が軽く公園の風景を描いたり
美雨を描いたり…
ただ、その時間がとてつもなく美雨は愛おしかった。このまま、ずっと続けば良いと願った
その願いは、呆気なく足元から崩れていった
杜が立ち尽くすその先に、一人の女性が立っていた
その女性を一目見てと、いうより
杜の明らかに動揺した顔を見て
美雨はそうなんだと悟った
杜の視線の先にいたのは
かの子だった
美雨は引っ越し業者に伝えた
結局あの日、病院から直接事務所へと、やってきた美雨は美登から部屋の事を提案された
驚いたものの、正直、美雨自身もあの部屋に戻るのは少し躊躇っていた
雑貨屋の襲撃といい、今回の事といい
そして、いつかの泥酔した真山を思い出すと
やはり、部屋を出ることがベストだと考えた
慣れ親しんだ、部屋を見渡す
ガランとして、何もない部屋をゆっくりと
ゆっくりと見た
上京したての頃や
真山と過ごした時間
そしてーーー
杜に抱かれた時の事をーーー
「もう、いいのか?」
杜の声にハッとする
美雨は一人で大丈夫と言ったものの
杜はいいからと言って引っ越しを手伝ってくれたのだ
相変わらずの無表情で、これといって会話もない。けれど、美雨はその無表情に隠された
優しさが少しずつ解るようになってきた
杜の手伝いのお陰で引っ越しもスムーズに終り
新しく美雨の部屋として用意してもらったスペースには沢山の段ボールが並べられた
「一人暮らしとは言え、女の子は荷物がおおいんだねぇ」
声に振り返ると、部屋の入り口に美登が立っていた
「美登さん、何から何までありがとうございます。本当に助かりました」
美雨は深々と頭を下げた
「美雨ちゃん、止めてよ。ほら、ちゃんと家賃だって貰うんだしさ、ねっ?ただ、戸締まりだけは、ちゃんとしなよ。同じフロアに最も危険人物がいるからね」
と、杜に視線を送る美登
杜は相変わらず、窓の外を見ていた
「美雨ちゃん、あらまし片付いたら言ってよ
この近くに実は旨い蕎麦屋が有るんだよ。出前取るから一緒に食べよう、引っ越し蕎麦」
「ありがとうございます。取り敢えずの分だけ片付けます」
美雨は美登の優しさに心から感謝していた
そして、杜に対してもそれは同じであった
それから、数週間が立ち、年も明けた
美雨は年末年始をゆっくりと実家で過ごした
両親に仕事のことや引っ越しの事も話した
父親の何を聞くでもなく「そうか」という一言に救われ、母の「しっかり食べなさい」といって出される手料理に心から元気付けられた
自分は愛されて育ったのだなと、改めて感じた
実家から戻り、杜の部屋へお土産を渡しに向かうと留守だった
美雨は迷わず最上階のアトリエへと向うと、杜はそこにいた
杜は大きな窓際で椅子に座り眠っているようだった
やはり、杜の寝顔は美しかった
やわらかく、普段の刺々しい雰囲気もなく
それは、いつまでもいつまでも
こうして見ていたくなるような寝顔だった
美雨は無意識に手を伸ばしていた
美雨の手がゆっくりと杜の頬へと伸ばされる
その手が軽く触れたと同時に
美雨の手は杜に掴まれた
「ご、ごめんなさい…」
「帰ったのか?」
「えっ…ええ、そうなの…」
美雨の手はまだ掴まれたままだった
「あの…その…ごめんなさい。寝てる所を起こしちゃって…手を…」
「起きてたよ」
「へっ?」
「あんたが入って来たときから起きてた」
「う、うそ…」
「本当」
と言って杜は立ち上がると美雨を抱き寄せた
「…きゃっ」
美雨の肩に杜が顔を埋める
「あんたの匂いがする。落ち着く…」
美雨は驚くほど早く動く心臓の音が聞こえないだろうかと心配しながらも
杜の温もりをゆっくりと感じた
どれくらい、そうしていただろうか
不意に杜が言った
「出掛けないか?」
思いがけない、杜の誘いだった
二人がやって来たのは、少し郊外にある公園だった
「知りませんでした。一ノ瀬さん、車の運転されるなんて…それに車も持ってらっしゃたんですね」
美雨が思ったままの事を言うと
「免許は美登が取れっていうから。車は美登の会社の。自由に使える。あと…杜、杜って呼べよ…」
ぶっきらぼうに言うと、さっさと歩いて行ってしまった。美雨は少し微笑むと
「杜さん、待ってくださいっ。そんな先にどんどん行かないでください!」
そう言いながら駆け寄った
その声を聞きながら杜が微笑んでいることに気づかずに…
ただ、何をするでもなく
会話が有るわけでもなく
時折、持ってきていたクロッキー帳に
杜が軽く公園の風景を描いたり
美雨を描いたり…
ただ、その時間がとてつもなく美雨は愛おしかった。このまま、ずっと続けば良いと願った
その願いは、呆気なく足元から崩れていった
杜が立ち尽くすその先に、一人の女性が立っていた
その女性を一目見てと、いうより
杜の明らかに動揺した顔を見て
美雨はそうなんだと悟った
杜の視線の先にいたのは
かの子だった