モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
「真山さん…どう、して…」

「美雨…やっと、見つけた
随分と探したよ
案外、近くにいたんだね
待たせて悪かった
さあ、俺と一緒に帰ろう」

美雨は怯えていた
真山のその真剣な眼差しに
狂気を感じていた

それはーーー
泥酔してやってきた時の真山より
はるかに恐怖を感じた

「真山さん、
私たち終わったじゃないですか?
奥様も、それを望まれていた筈」

「美雨、梓とは終わったんだよ」

「どういうことですか?」

「離婚した。梓が別れようと言ってきた
だから、美雨
もう、俺たちは誰に遠慮することなく
好きなだけ愛し合えるんだよ
さあ、おいで
俺の美雨」

真山は一歩二歩と近づいてきた

「真山さん、聞いてください!
私、好きな人…
大切に思える人が出来たんです
だから、真山さんとはもう…」

美雨は必死に伝えた

「何を言ってるんだ、美雨?
美雨は俺の事だけを愛していただろ?
なんで、そんなこというんだ」

真山がもう少しで美雨の手を取ろうとしたとき

パチンと
杜が真山の手を弾いた

「何をするんだ!
ああ?何だ君か?
確か書類を届けに来た
使いの子だっけ?」

明らかに嫌みを伴う真山の物言い

「真山さんだっけ?
こいつの事、自由にしてやんなよ
こいつはもうあんたと付き合ってた頃とは
違うんだよ。今はしっかりと
地に足つけて前に進み出してる」

杜は真山を真っ直ぐに見据えた

「何がわかる?
お前に俺の気持ちの何が解るんだ?
俺はいつだって、
仕事にも美雨の事にも
もちろん、梓の事にも
一生懸命尽くしてきた
なのに、ちょっとしたミスで
仕事は干され今じゃ窓際を陣取っている
梓にしても、あいつから別れを切り出した
この俺が…捨てられたんだよ
自分のかみさんに
この、俺が…
ゴミくずみたいに…
なあ、美雨
俺にはもうお前しかいないんだよ
助けてくれよ
俺を暖めてくれよ」

美雨は少し後ずさった

「いい加減にしろよ
こいつはもうあんたとは
関わりたくないんだ
仕事の事なんか、何とでもなるだろ?」

「お前に何が解るんだ…
どうせ、何の苦労も知らずに育ってんだろ?
見りゃわかるさ
そうだ、お前、確か絵を描いてただろ
二度と描けない様にしてやろう
そしたら、俺の気持ちが少しでも解るだろ」

そう、静かに言うと
真山は隠し持っていた
果物ナイフを両手で握りしめ
杜にじわりじわりと迫ってくる

そして、
大きく振りかざしたとき
美雨は咄嗟に杜の前に立ちはだかった

ドサッ






真山は地面に
抑えつけられていた

刑事、岡崎によって












< 93 / 165 >

この作品をシェア

pagetop