モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
《杜side》

俺は手元にある
画集の頁を捲っていた

ある絵画の頁で手が止まる

俺の好きな絵だ

ゲラン作
『モルフェウスとイリス』だ

この絵を初めて見たのは初等部に
いた頃だった
俺はその場から中々動けなかった

たまたま、父親の都合でロシアに
少し滞在することになり

俺と兄貴も着いていくことになった
父親としては小さいうちから
海外に慣れさせたかったのだと思う

父親が仕事の関係で
昼間は居なかったから
現地のガイドが色んな所へ
案内してくれた

その中にエルミタージュ美術館があった

広い館内を進んでいく
そしてーー
この絵と出会った

俺は生まれて初めてみる
本物の迫力
そして、
絶対的なその存在感に
しばらくその場から離れる事が出来なかった

ガイドに絵に纏わる話を聞いた俺は
日本に帰ると
学校の図書館で
また調べた

絵に纏わる神話についても読むと
ますます、その絵に惹かれていった

俺はいつしか
夢の神モルフェウスに少し
自分を重ねるようになった
神話の世界では
夢の世界は死の世界と
隣り合わせで
紙一重だった

俺は生きながらに
心を捨てた自分は
まさしく、死と隣り合わせの
夢の世界にいるようだと
いつしか思うようになった

そしてーー
俺にもイリスのような
女神が現れるのだろうか
大事な場面でちゃんと起こしに来てくれる
イリスのような女が
やってくるのだろうかと
思うようになっていた

もちろん、
少しは、かの子にも
そんな思いを抱いた事があった
ただ、何となくの感でそれは
違うと心のどこかで思っていた

そうして、
年月が過ぎ
俺はあいつに会った

初めてあいつに会ったとき
ただ、一方的に別れを切り出され
いきなり、書類にサインを求められ
なのに
黙って従うあいつに
少し、苛立った

何か文句言えよって
もっと、抵抗しろよって

なのにあいつは全くの受け身だった

だから気づかせたくて
あんたにもちゃんと魅力は
あるんだって
もっと、自分の価値を高めろよって

だから、あの時
言ったんだ

「いい女だよ」ってことを…








そしてーーー
俺はあいつを
ーーー美雨を抱いたんだ

















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