菜の花の君へ
思わず目をつぶって、真っ暗なまま唇の自由をすべて失っているようだった。
(怖い!和音さんがこんなこと・・・。体が動かないし、目があけられない。
和之さんとキスしたときでも、こんなことはなかったのに。)
智香子が唇を離そうとしても、何度も制圧されるかのように求められて離してもらえなかったが、それ以上を求められそうになったときに和音の携帯電話が鳴り響いた。
「くっ・・・はい。どういうことなんだ!
・・・・・・わかった。明日、事情を教えてくれ。」
智香子は和音が電話に出ている間に、自室へと逃げだしていた。
「はぁはぁ・・・胸が熱いわ。
電話がかかってこなかったら・・・私は、私はどうしていたんだろう。
明日、どんな顔すればいいの。」
そして和音も両手で頭を抱えながらベッドに倒れこんでいた。
(何をやってるんだ。今さらうろたえるなんて・・・。
何があっても、何をされても、乗り越えてきたのに、どうして今こんなに秘書の女ひとりが怖いと思うんだ!
怖い・・・兄さん、兄さんも怖かったんだよね。
彼女を置いて、たったひとりで逝くことになってしまって。
守らなければ!そう思えば思うほど・・・怖くなる。
だけど、先に救いを求めて・・・しまった。
いや、救いじゃないな。すべてが欲しいんだ。
もう・・・止められない。)