ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~
 森崎は途方に暮れていた。天野恵理子が殺されてしまったからだ。彼女に対する取材はまだ始まったばかりだ。ようやく彼女が行っていることがわかりだしたというのに、まだその心の闇を見いだすまでには至っていなかった。これでは取材が終わったとはいえない。しかし道は断たれてしまった。
 さて、どうしたものか。
 デスクに置かれたノートパソコンの画面を眺めて森崎は考えを巡らせていた。近所の住人たちはあまり英里子のことを好意的に見てはいない。仮に話を聞いても彼女にとって定的なことしか得られないだろう。それでは困るのだ。一方的なことだけでは彼女の闇の部分はわからない。彼女も元は動物をかわいがる人間ではあったようだ。それが何故あのような行動をするに至ったのか。それを解き明かすことがこの問題を解明することになる。
 森崎はそう信じていた。
 どこかに道はあるはずだ。
 森崎は考えた。彼女は本当に独りきりだったのだろうか?どこかに彼女を理解する人間は居なかったのだろうか?
 そう考えることはとても難しいことだった。これまで森崎があった人たちはすべて英里子を否定する人ばかりであった。少しでも彼女を肯定しようとする人は居なかった。英里子が一時身を置いていた動物愛護団体の人で会ってさえ彼女のことを理解しようとはしていなかった。
 森崎は初めて英里子をかわいそうな人物だと思った。
 普通人間は誰かしらと関わりを持って生きている。本当の意味での孤独とはなかなかあり得ることではないはずだった。しかし彼女にはそう言ったつながりを見いだすことが出来なかった。
 それは単に周囲の人が彼女を否定していたからではないような気がした。英里子の方からも周りの人々を否定していたのではないだろうか?その理由が何か和は刈らない。だがそこにこそ彼女の闇を解き明かすヒントがあるのではないだろうか?だとするならば、やはりもう少し英里子のことを調べる必要がある。
 そこまで考えたとき、森崎の脳裏にある考えが浮かんだ。
 今、遺体は警察の手にあるが、やがてそれは遺族の元に返されるはずである。その遺体を引き取った人物ならば、まだ森崎がつかんでいない英里子の人となりを知っているはずである。それならば彼女の葬儀の場がそのチャンスだった。今の時勢、自宅で葬儀を行う人はあまりいない。葬儀場やセレモニーホールと呼ばれる場所で行われるのがほとんどである。ならば、そこに網を張っていれば次の一手が打てるのではないか?
 森崎はそう思うとスマートフォンを散りだしてiタウンページにアクセスした。
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