君と、世界の果てで


彼女の体は一瞬震えたが、すぐに観念したように、力が抜ける。


長い口づけから開放してやると、彼女の唇が、どちらのものともわからぬ唾液で、妖しく光った。





「……好きだ」





自分でも意外なほど、するりと出た言葉は、深音の唇に落ちた。



彼女の大きな瞳は、みるみる涙を溢れさせる。



「だから、死ぬなよ。

俺が……守るから」



真珠のような涙が、ボロボロと彼女の頬をつたって、その豊かな胸に落ちた。



必死にうなずく彼女を、また、抱きしめる。




彼女は、陸のものではなかった。



その事実が、俺に勇気を与えた気がした。





……ずっと、逃げていた。



俺だって、もう、とっくに。



きっと、初めて君を見つけた日から。



好きだったのに。



バンドを言い訳にして。



逃げていた。



一度走り出したら、止められないのがわかっていたから。



< 219 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop