結婚白書Ⅲ 【風花】
7.接吻


彼の唇が私の肌に触れる


体の感覚は これ以上なく研ぎ澄まされ

唇が押し当てられた 一点 一点を 全神経で感じていた


顎から 離れた唇は 

やがて私の唇に触れた



今だけ

すべてを忘れよう


今だけ

彼のことをだけ考えていたい


いまだけは……


彼の唇が 吸い付くように私と重なった




彼とこうして口づけたいと 心のどこかで望んでいた

自分の気持ちを押し込めたはずなのに 彼への想いは募る

名前を呼んで欲しい 私に触れて欲しい 口づけて欲しい……


閉じていた口が少し開き

彼の唇が 深く 深く 私を求める



愛しい人とのくちづけは


ときに 燃えるように

ときに 溶けるように


くりかえし 交わされる



首を支えていた手が肩へと滑ると 肩先近くまで開いた襟がするりとおりた


唇から離れた口が ”朋代” とつぶやくと

再び 私の肩先に口づけた


それも強く

そして 胸元にも

刻印を打つような口づけ



いつも感情を抑制したような彼が

今 こんなにも私を求めている



すべてを

私のすべてを与えてもいい

そして 全身で私を感じて欲しい


今まで こんなに誰かを求めたことがあっただろうか

こんな激しさが私にもあったのかと 彼の愛撫を受けながら思った

 



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