クリスマスの夢 ~絡む指 強引な誘い 背には壁 番外編~
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巽にダイナーズクラブのゴールドクレジットカードを手渡され、いつもより値が張るブランドのワンピースを着たはいいが、巽からは何の感想も得られず、ぷんぷんしながら、風間が運転するセンチュリーに乗り込んだ。
行き先は中央ホテル。そのままホテルに泊まって明日はホテルから仕事に行くことにして、明日の用意もしておく。
巽が公の場に連れて行ってくれるのは、これで2度目。
前回は、秘書に変装しての登場だったが、今回はそうじゃない。堂々と、顔を出して紹介してくれる、しかも、揃いの時計をつけて。
非常に満足した気分の中、ホテルに入り、荷物を預けてエレベーターに乗り込む。
チェックインの手続きを風間に任せることが自然になっている自分が、少し怖くなる。
前は「自分でやります」の一言が出た気がするが、最近は秘書だから当然、と思ってきてしまっている。
風間は自分の秘書ではない。巽の秘書だ。それをわきまえておかなければならない、と今強く心に戒めておく。
ポン、という電子音と同時にエレベーターの扉が開く。
52階に到着した証だ。
箱から降り、廊下を歩き始めたところで、奥の角から数人が歩いてきているのが見えた。
目を逸らす。
それは、先頭に立っている女性の衣装がとても派手でセクシィなロングドレスだったから、という理由からだった。女性の後ろには2人、スーツの男性が付いて来ている。
「あらぁ?」
相手は通り過ぎようという頃になって、声を出す。
香月は、隣の巽を見上げた。
「まぁた、面白い物を飼っているようね。子猫にロレックスは似合わなくてよ?」
なっ………!?
一旦停止していたはずの巽はすぐに歩き出す。
「……」
後を追うように、香月も足を一歩出した。
「そんな靴でどこに行くつもり?」
一瞬、足がすくむ。
私に、言ってるの……?
「おい、頭のイカレタ女だ。お前には関係ない」
巽は明らかに怒っていると分かる低い声を相手に向けると、香月の腕を強く引いた。
「靴くらい、買っておあげなさい」
すぐに、エレベーターが閉まる音がする。
「……行くぞ。……気にするな。アイツは少しおかしいんだ」
巽がイラついているのが分かる。
靴……この靴はさっき買ったばかりの新しい物……一万五千円もした白いパンプスだけど、巽が履いているような高級な物ではない。
それは、お金持ちが見ればすぐに分かるのかもしれない。
「お前の靴など、誰も見ていない」
巽が立ち止まったことに気付いて、顔を上げた。
そこはもうレストランの入り口である。
帰りたい……この靴を履いて行ったら、四対や副社長は何も思わないかもしれないが、他のお客さんに見られてしまう。
巽がこんな安物を纏った女と歩いている、というところを。
「…………」
だがここで、帰る、とは言えなかった。
香月はそれだけ、大人になった自分を感じた。
巽にダイナーズクラブのゴールドクレジットカードを手渡され、いつもより値が張るブランドのワンピースを着たはいいが、巽からは何の感想も得られず、ぷんぷんしながら、風間が運転するセンチュリーに乗り込んだ。
行き先は中央ホテル。そのままホテルに泊まって明日はホテルから仕事に行くことにして、明日の用意もしておく。
巽が公の場に連れて行ってくれるのは、これで2度目。
前回は、秘書に変装しての登場だったが、今回はそうじゃない。堂々と、顔を出して紹介してくれる、しかも、揃いの時計をつけて。
非常に満足した気分の中、ホテルに入り、荷物を預けてエレベーターに乗り込む。
チェックインの手続きを風間に任せることが自然になっている自分が、少し怖くなる。
前は「自分でやります」の一言が出た気がするが、最近は秘書だから当然、と思ってきてしまっている。
風間は自分の秘書ではない。巽の秘書だ。それをわきまえておかなければならない、と今強く心に戒めておく。
ポン、という電子音と同時にエレベーターの扉が開く。
52階に到着した証だ。
箱から降り、廊下を歩き始めたところで、奥の角から数人が歩いてきているのが見えた。
目を逸らす。
それは、先頭に立っている女性の衣装がとても派手でセクシィなロングドレスだったから、という理由からだった。女性の後ろには2人、スーツの男性が付いて来ている。
「あらぁ?」
相手は通り過ぎようという頃になって、声を出す。
香月は、隣の巽を見上げた。
「まぁた、面白い物を飼っているようね。子猫にロレックスは似合わなくてよ?」
なっ………!?
一旦停止していたはずの巽はすぐに歩き出す。
「……」
後を追うように、香月も足を一歩出した。
「そんな靴でどこに行くつもり?」
一瞬、足がすくむ。
私に、言ってるの……?
「おい、頭のイカレタ女だ。お前には関係ない」
巽は明らかに怒っていると分かる低い声を相手に向けると、香月の腕を強く引いた。
「靴くらい、買っておあげなさい」
すぐに、エレベーターが閉まる音がする。
「……行くぞ。……気にするな。アイツは少しおかしいんだ」
巽がイラついているのが分かる。
靴……この靴はさっき買ったばかりの新しい物……一万五千円もした白いパンプスだけど、巽が履いているような高級な物ではない。
それは、お金持ちが見ればすぐに分かるのかもしれない。
「お前の靴など、誰も見ていない」
巽が立ち止まったことに気付いて、顔を上げた。
そこはもうレストランの入り口である。
帰りたい……この靴を履いて行ったら、四対や副社長は何も思わないかもしれないが、他のお客さんに見られてしまう。
巽がこんな安物を纏った女と歩いている、というところを。
「…………」
だがここで、帰る、とは言えなかった。
香月はそれだけ、大人になった自分を感じた。