たぶん恋、きっと愛
「お前、雅を好きなのか」
少し距離を取って後ろを歩いていた凱司の声が、かすかに聞こえて。
田鹿は振り返った。
ゆっくり歩きながら、柳井に訊いているのだろう、凱司の声は、意外に静かだ。
「……好きです」
加奈子に無理やり前を向かされた田鹿だが、目を見合わせるように二人で肩をすくめると、耳を澄ませた。
「で、そう言ったんだろ?」
「言いました」
「で?」
「は?」
「なんて、言われた」
足を止めた柳井の背を押し、鷹野と同じように、唇に人差し指を当てた。
「止まるな。デカイ声も出すな。雅がうるさい」
「は…」
に、と唇の端を上げた凱司が、先を歩く鷹野と、隣を俯き加減で歩く雅とを指差す。
「さっきの、俺に訊きたかったのか? あいつじゃなく?」
しばし前を見つめていた柳井も違和感があるのか、口をつぐんだ。
「確かに、雅は俺のだ。買ったからな。だけど、お前が思うようなもんじゃねぇよ。お前が思うような心配は…あっちだろ」
黙った柳井に、ゆっくりと話す凱司は、ことのほか穏やかで。
聞き耳を立てていた田鹿も、加奈子も、顔を見合せた。