涙と、残り香を抱きしめて…【完】

安奈が出て行ってから数日…


俺はまだ、星良に気持ちを伝えてはいなかった。


思った以上に仕事が忙しくなり、残業続きの日々。
それに加えほぼ毎日、接待となるとマンションに戻るのは深夜だ。


だが、これは言い訳に過ぎない。
別に深夜だろうと、アイツの部屋を訪ねる事は出来た。
今までもそうしてきたんだから…


それに、携帯やメールで連絡を取る事も出来る。しかし、一人になり携帯を手にすると、なぜか寂しそうな安奈の顔が浮かび決心が揺らいだ。


安奈が俺以外の男を求めたという事実を、まだ受け入れられないのかもしれない。


何やってんだ…俺は…
この期に及んで、まだ安奈が帰って来るんじゃないかと考えているのか?


せっかく安奈が俺に自由をくれたのに、こんなんじゃあ、安奈に笑われるな…


苦笑いを浮かべ、専務室の窓の向こうにそびえるビル群を眺めながらパソコンの電源を落とす。


「さて、飯でも食いに行くか…」


気分転換に久しぶりに外でランチを食べようと会社のビルを出ると、後ろから声を掛けられた。


「ご無沙汰ね。専務」

「明日香か…」

「何?その残念そうな顔は!!私で悪かったわね」

「久しぶりに会ったのに、突っ掛かるなよ。
お前も飯か?…一緒にどうだ?」

「じゃあ、フレンチでも行っちゃう?」

「バカ…」


お互い呆れた様に笑うと、並んで歩道を歩き出す。


「なぁ、明日香…最近、星良と会ってるか?」

「うぅん。全然。たまに電話で話すくらいかな…
なんでも、マダム凛子のショーに出る為にレッスンしてるそうで、かなり疲れてる感じだったわ。

しかし、驚いたなぁ~
星良ちゃんがホントにモデルデビューするとはね…
成宮部長も、なかなか粋な事するじゃない」

「成宮?アイツが何したんだ?」

「あら?知らないの?
成宮部長がマダム凛子に星良ちゃんをモデルにして欲しいって頼んでくれたそうよ。
成宮部長、いいとこあるでしょ?」


はぁ?なんだ…それ?


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