涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「明日香もバカだな。
成宮がそんな図々しい事頼める訳ないだろ?
そんなデマ誰に聞いたんだ?」


すると、俺の言葉に明日香が異常に反応した。


「バカって何よ!!私は直接、星良ちゃんに聞いたのよ!!
それをデマって…なら、デマだって証拠はあるの?」

「あるさ…」

「へぇ~どんな?」

「星良をモデルに推薦したのは、俺だよ」

「へっ?専務…だったの?」

「あぁ…」


驚いた顔をした明日香が「もっと詳しく聞かせて!!」と俺の腕を掴み近くにあったパスタ専門店に入って行く。


「おい、パスタでいい?とか聞けよ!!」


すると、血走った眼をした明日香が般若の様な顔で聞いてくる。


「…パスタで…いい?」


この世のモノとは思えない鬼気迫る形相。
その恐ろしさに思わず頷いてしまった。


「い…いいです」


ビビる俺を引っ張り席に着き注文を済ませると、明日香が鼻息荒く俺を見た。


「どうしてなの?専務は星良ちゃんがモデルになる事、嫌がってたじゃない。
なのに、なぜ推薦なんか…」

「別に嫌がってなんかないさ…」

「うそ!!嫌がってたわよ!!
この前の企画の時だって、星良ちゃんがモデルをするって言ったら、鬼みたいな顔して反対してたじゃない!!」

「あぁ…アレか…」


こんな話し明日香にするつもりはなかったが…仕方ないな…


「前に明日香が専務室に怒鳴り込んで来た事あったろ?」

「えっ?あぁ…星良ちゃんをコールセンターに移動させた時の事?」


あの時は、理子をモデルから勝手に降ろし、企画自体を危うくさせたという事で、他の部門からもなんらかの処分をするのが望ましいという声が上がっている。


このままでは示しが付かくなくなり、星良に対する不信感が広がる恐れがあるから部長である星良に仕方なく責任を取らせる事になったと明日香を納得させた。


「専務が星良ちゃんに言うなって言ってたから、彼女には言ってないわよ」

「うん。でもな、本当はそうじゃなかったんだ…」

「それ、どういう事?」


俺は、理子の父親の一件を明日香に話した。



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