涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「うそ…そんな事があったの?」
真実を知った明日香は信じられないという顔をして手で口を覆った。
「じゃあ、星良ちゃんがモデルになるを反対したのも、コールセンターに移動させたのも、全て彼女の為にした事?」
「そうするしか、星良を守る事が出来なかったんだよ」
「ちょっと待って…
専務が取締役から降ろされたのは、まさか…それが原因?」
「俺がどうなろうと構わないさ…
ただ、星良には、ずっと悪いと思ってた。
いくらアイツを守る為とは言え、これまで頑張ってきた星良をファッション部門から追い出す形になってしまったからな。
だからせめて…
…アイツの夢を、叶えてやりたかったんだよ…」
「星良ちゃんの夢って…?」
「俺達が出逢った頃、星良はショーに出るのが夢だと言ってたんだ。
その話しをしている時の星良は、眼を輝かせて生き生きとしていた。
それが忘れられなくてな」
幸せだったあの頃の事を思い浮かべ微笑むと、明日香が探る様に聞いてきた。
「もしかして…専務、まだ星良ちゃんの事を…」
俺は迷い無く頷いた。
「だったらなぜ、他の女性と同棲なんか…」
「同棲なんかしてないよ。
アイツは、俺の娘だ」
「えぇーっ!!むす…め?ですって?
でも、星良ちゃんは確かに専務の口から彼女だって紹介されたって…」
「それは、星良に俺の事を忘れて欲しくてついた嘘だ。
娘の安奈は、俺が母親以外の女を好きになる事を許さなかったからな」
「じゃあ、専務が離婚しなかった理由は、娘の安奈さんを思って?」
「あぁ。俺は安奈の父親なんだよ。
安奈を傷付ける事は出来なかった」
前のめりに俺の話しを聞いていた明日香が大きなため息を付き、ソファーの背もたれに体を預ける。
「なるほどね。だから星良ちゃんと別れたんだ…
娘が相手じゃあ、星良ちゃんも勝ち目なさそうね」
「そんな事はないさ…」
「えっ?」
明日香の体が跳ね上がり、再び前のめりで俺を見つめた。
「安奈が分かってくれた。
俺は、離婚するよ」