涙と、残り香を抱きしめて…【完】

『さあ…理由は知らないけど…
でね、工藤さんに私がレッスン受けてる桐子先生の家に連れて行かれて…
そこで凄い話し聞いちゃった。

今度の企画で、桐子先生の結婚式するそうなの。
その桐子先生ってね、45歳なんだけど、最近結婚して新婚ホヤホヤらしいわ。

旦那様はひとまわり上の57歳。ロマンスグレーの素敵な方だった』

「あぁ、その話しなら俺も今日、凛子先生に聞いたよ。
それと、俺達が結婚するって事も伝えといた」

『えっ、話したの?なんだか、恥ずかしいな…』


星良の照れた声が堪らなく可愛い。


「星良のウエディングドレスは、俺がデザインしてやるからな」

『ホント?嬉しい!!』


このままずっと星良と話していたかったが、そういう訳にもいかない。
30分ほどで通話は終わった。


「寒い…」


星良と話してる時から感じてた寒気
まだ夜は肌寒い3月。濡れて冷たくなったスーツが俺の体温を奪っていく。


ヤバい…頭痛もしてきた…


また雨の中を全力で走りマンションに着くと、案の定、安奈が俺の部屋の扉にもたれ掛りスマホをいじっていた。


「ヤだ!!蒼君…傘持ってなかったの?ずぶ濡れじゃない」


驚いた顔をした安奈が駆け寄って来たと思ったら、いきなり俺が持っていた部屋の鍵を奪い取り、慌てて扉を開ける。


「とにかく早く中へ…」


安奈は甲斐甲斐しく俺の世話を焼く。
風呂を入れてくれ、温かい野菜スープまで作ってくれた。


「あぁ…旨い…」

「でしょ?あたし、こう見えて料理は得意なんだ」


眼を輝かせそう言う安奈に、俺は特に何も考えず「意外だな」なんて言ってしまった。すると彼女の表情が一変し「いつも一人だったから…」と寂しそうに笑う。


「あ…。ごめん」

「うぅん。いいよ。
でも、自分の為じゃなく好きな人に作る料理は断然、やる気が出ちゃうよ」


その言葉を聞いて、今度は俺の胸が痛む。


いつになったら、安奈は俺を諦めてくれるんだろう…


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