涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「ねぇ、蒼君。
なんだか顔赤いよ…熱あるんじゃない?」


安奈のひんやりとした小さな手が俺の額に触れる。


「あぁーっ!!凄い熱い!!体温計は?」

「そんな物無いよ」

「じゃあ、風邪薬とかは?」

「無い」

「もう!!自信満々で言わないでよねー
あたし、買ってくるから待ってて!!」


心配いらないと言う俺を無視して安奈は部屋を飛び出して行った。


「はぁーっ…」


安奈には平気だと言ったが、本当は、かなり辛かった。


体の節々や喉が痛み寒気も酷くなっている。
とにかく、今日は大人しく寝よう…


ベットにもぐり込み毛布を体に巻き付ける。
だが、寒くて体の震えが止まらない。


安奈が帰って来て、風邪薬を飲ませてくれてくれたが、症状は全く変わらなかった。


「蒼君、やっぱ、病院行った方がいいよ」

「いや…いい…」


そう言った後の記憶は定かではない。
眠ってしまったのか…熱で意識が混濁したのか…
眼が覚めたのは、翌朝だった。


まだ頭は痛いし、体は熱い。
でも、昨夜よりは大分マシになった。


取り合えず、今日は仕事を休ませてもらおう…
そう思い体を起こそうとして気付いたんだ。


「…このパジャマ…」


俺が昨夜着ていたパジャマじゃない。


すると、俺の足元でベットにもたれ掛り眠っている安奈を見つけた。
その胸には、俺が昨夜着ていたパジャマがしっかり抱えられていた。


「安奈…」


夜中に汗をかいた俺を着替えさせてくれたのか?


そのあどけない寝顔に不覚にもドキリとする。


気が強いが、明るくて優しいヤツだ…
だから余計、辛くなる。
安奈の気持ちに応えてやれない事が…


眠っている安奈の頭を撫でながら、ため息混じりに呟く。


「すまない…安奈」

< 220 / 354 >

この作品をシェア

pagetop