涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「んっ…蒼…君?」


眼を覚ました安奈が顔を上げ、トロンとした眼で俺を見る。


「どう?もう平気?」

「あぁ、随分、楽になったよ…安奈のお陰だ。
ありがとな」

「そう…良かった」


そう言って笑った安奈だったが、どうも様子がおかしい。
頭を撫でていた手を頬に移動させると…
異常に熱い。


「安奈ちゃん…もしかして、俺の風邪がうつったのか?」

「う…ん。そうかも…」

「バカ!!自分も調子悪いのに、そんなとこで寝てたらダメだろ!!」


俺は慌ててベットから出て安奈の顔を覗き込む。


「あ、でも…調子悪くなったのは朝方だし
それに、他に寝る所無いし…」

「あ…」


そうだった。このマンションは仮の住まい。1Kの小さな部屋だ。
ソファーも無ければ、予備の布団も無い。
おまけに床はフローリングで、とても安眠出来る場所じゃない。


「すまなかった」

「うぅん。そんなのいいの。
あたしね、ホントは蒼君の隣で寝ちゃおうかなって思ったんだ。

でも、蒼君が眼を覚ました時、あたしなんかが隣に居たら迷惑かな…って」

「どうしたんだよ?安奈ちゃんらしくないな。
毎日、強引に押し掛けて来てるくせに…」


すると安奈は苦笑いを浮かべながら「それとこれとは違うよ」なんて言う。


「どう違うんだ?」

「だって…隣に寝ていいのは、彼女だけでしょ?」


熱のせいなのか?それとも…
潤んだ瞳が切なく揺れる。


「安奈ちゃんがそんな事言うと調子狂うだろ?
とにかく、俺はもう大丈夫だから、ベットで少し寝た方がいい。
今、シーツ変えるから…」


立ち上がりシーツを外そうとしてかがんだ瞬間、俺の背中に熱い体温を感じた。


「シーツなんて、変えなくていいから…
今だけ…蒼君の彼女に…して?」

「あん…な…」

「お願い…あたしと一緒に…寝て?」

「……!!」
< 221 / 354 >

この作品をシェア

pagetop