涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「蒼君があたしを好きじゃないって事は分かってる。
でも…あたしは蒼君が好きなの。
好きで…好きで…どうにかなっちゃいそうだよ…」
背中越しに安奈の震える声が響いてくる。
「…安奈ちゃん、君の気持ちは嬉しいよ。
でもな、俺は星良と結婚するんだ」
「そんなの分かってるって言ってるでしょ!!
それでもいいの…いいから…
一度だけ…あたしを…見て?」
俺を後ろから抱きしめた状態で、安奈が自分の体重を掛けながら力一杯、押してきた。
「おわっ!!」
突然の事で不意を突かれた俺の体は眼の前のベットに突っ伏す様に倒れ込む。
「何する…」
慌てて振り向くと、思い詰めた顔をした安奈が「一度だけ…お願い!!」と叫びながら着ていたセーターを脱ぎ捨てた。
「やめろ…やめるんだ…安奈ちゃん」
「いや!!やめない!!」
そのまま止める間も無く一気に服を脱ぎ下着姿になった安奈を、俺は呆然と見つめるしかなかった。
背中に手をまわしブラのホックを外そうとしている彼女は、恥ずかしさからなのか、頬を紅に染め微かに震えている。
「頼むから…よせ…」
安奈の胸からピンクのブラが滑る様にスルリと離れ、フローリングの床に向かって落ちていく…
露わになった安奈の胸は、思った以上にふくよかで、形のいい胸だった。
そして、ゆっくり俺に覆い被さる様に体を倒す。
「一度だけ抱いてくれたら…忘れるから…」
「えっ?」
「もう、蒼君を好きだって言って困らせないし、ここにも来ない」
安奈の顔は、真剣そのものだった。
だが、俺はあえて聞く。
「…本気か?」
「本気だよ。だから、抱いて…」
イケナイ事だと分かっていながら、耳元で甘く囁く安奈の声に、俺は間違いなく女を感じていた。
それに、一度だけ安奈を抱けば、身を引くと言っている。
一度だけ…一度だけだ。
それで全て解決する。
"なら、抱いてしまえばいい…"
そんな悪魔の囁きが聞こえた様な気がした…