涙と、残り香を抱きしめて…【完】
色んな意味でショックを受けていた。
私は、とんでない女性に戦いを挑んでいたのかもしれない。
彼女に比べれば、私なんてただの平凡な女…
こんな溢れるほどの才能の持ち主に勝てるワケがない。
そう思うと、無性に恥ずかしくなる。
「ほら、そんなとこでボーとしてないで、こっちに来なさい」
マダム凛子に呼ばれ慌てて歩き出すと、会場の奥にひと際輝いているドレスを見つけ、再び足が止まった。
「これは…」
「どう?素敵でしょ?
これが私の集大成…あなたが着るドレスよ」
「あぁ…っ」
「今朝、やっとチャーター便で届いたの」
「…凄い」
そのドレスを見た瞬間、今まで見た全てのドレスが色あせて見えた。
「このドレスに使われているのはミカドシルク。この光沢は、他のシルクでは出せないわ。
最高級のシルクよ」
「は、はい…」
「レースは全てイタリアから取り寄せた手縫いのもの。ビーズも厳選された数種類を3ヶ月かけて、丁重に手で縫い付けてあるわ」
満足気に微笑んだマダム凛子がベールを手に取り、私にしゃがむように言う。
そして、そのベールを私の頭に乗せ髪を整えてくれた。
「ベール長さは5メートル。チュールを使い縁取りのレースはもちろんドレスと同じイタリア製よ」
「凛子先生…」
「よく似合ってる。ショー当日は、最高に美しいあなたを見せてちょうだい」
まるで羽根の様に軽くハラリと波打つベールに包まれ、別世界に居るような感覚に陥る。
でも「期待してるわよ」という彼女の言葉に我に返り、どういう訳か不安と恐怖で体が震えだした。
「私に…出来るでしょうか?
このドレスの素晴らしさを、私は伝える事が出来るでしょうか…」
「何言ってるの?
その為に、桐ちゃんにあなたを預けたんじゃない。
最高のパフォーマンスをしてもらわないと困るわ」
「でも…」
「心配する事ないわ。
島津さんは一人じゃない。隣には、愛するパートナーが居てくれるでしょ?」
愛するパートナー…