涙と、残り香を抱きしめて…【完】
マダム凛子が言ってるのは、間違いなく成宮さんの事だ。
「そう…ですね」
仕方なくそう答え、そっとベールを外す。
「結婚式が楽しみだわ」
私の気持ちに気付く事なくマダム凛子がニッコリ笑った。
その笑顔が私を追い詰めているという事も知らずに…
そして会場を出て、明日香さん達の所に戻ろうとしていた私にマダム凛子が声を掛けてきた。
「悪いけど、成宮に私がここで待ってるって伝えてちょうだい」
「あ、はい。分かりました」
外に出ると玄関の前に明日香さん達が居た。私は成宮さんにマダム凛子からの伝言を伝えると、少し驚いた顔をした後に「そうか…」と、なぜか元気が無い声。
「どうかしたの?」
「いや…なんでもない」
そう答えた成宮さんの顔は酷く沈んでいる様に見え、それが妙に気になり建物の中に入って行く彼の背中を見つめていると、急に成宮さんが振り返り私の名を呼んだ。
「星良…」
「何?」
「あ…いや…。
俺はショーが終わるまでマンションには戻れないから…すまない」
「…そう。気にしないで。
仕事だもの仕方ないわ」
「あぁ。有難う…」
らしくないと思った。
今の彼は、私の知ってる成宮さんじゃない…
やけに弱々しく、いつもの自信に満ちた様子は微塵も感じられなかった。
それは、安奈さんに関係があるの?
私まで気持ちが沈んでいく。
すると…
「ねぇ、専務に気持ちを伝えられた?」
明日香さんが辺りを気にしながら小声で聞いてくる。
「伝えた…。でも、見事に撃沈だよ」
「えっ?まさか…」
「悪い冗談はよせとか、面倒だ…とか言われちゃった。
遅過ぎたんだよ。何もかも…」
そう言って空を見上げると、灰色の雲から無数の雨粒がポツリポツリと落ちてきて乾いた頬を濡らしていく。
それはまるで、私の代わりに泣いてくれてる様だった…