涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「あら?島津さんじゃない。久しぶりね」
「は…い」
工藤さんとは東京から帰った後、電話で話したっきり会ってなかった。
成宮さんの事を聞かれ話しをはぐらかし電話を切ってしまったから、なんだか気まずい…
なのに工藤さんは、そんな事気にしてない様に笑顔で近づいてくる。
「もうずーっと雨よね。梅雨だから仕方ないけど、ショーの時だけでいいから晴れて欲しいわねー」
花柄の傘をクルクル回しながら恨めしそうに空を見上げ、ため息を付く工藤さん。
「そうですね…」と私も同じく空を見上げ呟くと、トレーラーの運転手が工藤さんに「荷物はどこに運びますか?」と聞いてきた。
「あぁ、そこのホールの玄関にマダム凛子が居るから、彼女の支持に従ってちょうだい」
「分かりました」
トレーラーから運び出され台車に乗せた荷物は、丁重にナイロンシートで梱包された大きめの箱
「大切な物だから慎重に運んでね」
工藤さんが台車を押す運転手の後姿を心配そうに見つめている。
「アレは、なんですか?」
「んっ?アレ?アレはね、マダム凛子の宝物よ」
「宝物…ですか?」
「そうよー、アレをここに持ってくるだけで大騒ぎだったんだから。
わざわざ、このチャーター便で東京と名古屋を往復して来たのよ」
「はぁ?あの箱1つ運ぶだけで、このデッカいトレーラーで東京まで行ってたんですか?」
「そーゆーこと!!」
マジ?信じらんない…
「宅急便じゃダメだったんですか?」
どうしても納得いかず、工藤さんに食い下がる。
「ダメダメ~!!万が一、アレが手違いで紛失…なんて事になったら、マダム凛子はショックで発狂するわ」
「発狂?そんな大事な物なんですか?」
「そうね…彼女にとってアレは、かけがえの無い大切な物…」
そんな事言われたら、アレがなんなのか、凄く気になるじゃない。
「で、アレって、なんですか?」