涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「もう起き上がって大丈夫なんですか?」

「御覧の通りよ。ほらほら、そんなとこに突っ立ってないでこっちに来て座ったら?」


桐子先生が指差したベットの横のパイプ椅子に座り、お見舞いの花をテレビ下の棚の上に置いた。


「有難う。綺麗な花ね。まるでブーケみたい…」


眼を細めて微笑む桐子先生の言葉にハッとして顔を上げる。


「あの…もうお聞きになってると思いますが、ショーの結婚式…私が桐子先生の代役になったんです」

「知ってるわ。私がこんなじゃ、どうしようもないものね」

「…すみません」


頭を下げる私に、桐子先生は不思議そうな顔をして「どうして謝るの?」と聞いてくる。


「だって…桐子先生に相談せず勝手に決めてしまったから…」

「何言ってるの?私は島津さんに感謝してるのよ。
香山だって、あなたが受けてくれて本当に良かったって言ってるわ」

「そう言ってもらえるとホッとします。
桐子先生には敵いませんが、精一杯、頑張ります」


恐縮しながらそう言うと、突然、桐子先生の眼つきが変わった。


「あなた…本気でそんな事思ってるの?」

「えっ?」


何?私、桐子先生を怒らせる様な事言ったかな?


「私には敵わないとか…それがマダム凛子のショーのラストを飾るモデルの言う言葉?」


あ…


「いい?どんな形であれ、妥協を許さない凛子があなたを選んだの。
それがどういう事か…あなたは全然、分かってない。

彼女が使うモデルのほとんどが世界で活躍してるトップモデルばかり、そのモデル達をも納得させるだけの魅力があると信じて島津さんを抜擢したのよ。

なのに、そんな気弱な事を言っててどうするの?
モデルとして島津さんに足りないモノは自信よ。
もっと自分に自信を持ちなさい」


桐子先生の言っている事は分かる。


「でも…今回は本当の結婚式をするっていうのが目的で…
たまたま、私が結婚を控えていたからじゃあ…」


遠慮気味に反論する私に、桐子先生は呆れ顔で言う。


「バカな娘ね。あなたが使えないモデルだと判断したら、凛子は躊躇する事無く結婚式を中止してたわ。

この世界は、あなたが考えているほど甘くないのよ」

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