涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「…そうでしょうか…?」
マダム凛子がそこまで私を信頼してくれてるとは思えない…
「私だって、島津さんに期待してるのよ。
私のモデルとしての知識を全て叩き込んだあなたが活躍してくれる事を…」
私の手を取り大きく頷くと、急に桐子先生の声が小さくなった。
「島津さんは、私の最後の教え子なんだから…」
「最後って…どういう事ですか?」
「モデルクラブはね…もう辞めるつもりなのよ」
「えっ?なぜですか?生徒さん沢山みえるのに!!」
驚いて、つい大声でそう叫んでいた。
すると、雨が打ちつける窓に視線を移した桐子先生が寂しそうな顔で話し出す。
「私の頭の中の腫瘍…全て取り除いた訳じゃないの。
手術が出来ない場所にまだ残ってるのよ。
この先、腫瘍が大きくなれば、体に麻痺が出る可能性があってね。
歩く事も出来なくなるかもしれない…
そんな体で満足な指導なんて出来ない。
だから辞める事にしたのよ…」
「そんな…」
「誰にも言わないでよ。同情されるのは嫌だから…」
そう言って笑った桐子先生だったけど、それは明らかに無理矢理作った笑顔。
「この事、香山さんはご存じなんですか?」
「もちろん知ってるわ。
だから私なんかと結婚しない方がいいって言ったのに…
ホント、バカな人…」
「そんな…バカだんて…
香山さんは、本当に桐子先生を愛してます。
桐子先生と香山さんは、私の理想の夫婦なんですから!!」
失礼を承知で声を荒げると、今度は苦笑いを浮かべる桐子先生。
「…私が香山と初めて会ったのは、もう20年も前の事…」
桐子先生が記憶の糸を噤む様に、懐かしそうな顔で香山さんとの過去を話し出した。
「当時、彼には奥さんと子供がいたの…」
「えっ…?」
「不倫だったのよ。私達…」
不倫…
その言葉を聞いて、一瞬、仁の顔が浮かんだ。