スカイグリーンの恋人


「池田君 あなたってすごいわね……あの状況でとても落ち着いていたわ」


「そんなことないです 俺も必死でしたから」


「私の経験なんて役に立たなかったわね 手話はどこで覚えたの?」



手を振ったあと、力なく脇に下げられた佐名子さんの手をとり握り締めた。

えっ と小さな声がしたが、気がつかないふりで話をした。



「特に習ったことはなくて 姉貴と話をするために自然に覚えて」


「お姉さんと……そうだったの」


「手話 小野寺さんもできますよ」


「えっ?」


「聞いてますよね 隣りに住んでたってこと 

小野寺さん 姉貴と幼馴染だったから」



姉貴と話をするために必死で覚えたと言っていたが、

それは言う必要のないこと。

小野寺さんが姉貴と付き合っていたということも……
 


「私ももっと勉強しなくちゃ 今日は池田君に助けられたわ ありがとう

手話 私にも教えてね」


「はい いつでも」


「それで……この手 いつまでつないでればいいのかな」


「もう少し このままでもいいですか」


「えぇ……」



伊織は佐名子さんが好きだ。

アイツは気持ちを隠そうともしないから、誰の目にも丸わかりだ。 

近いうちに、伊織は佐名子さんに気持ちを伝えるのではないかと踏んでいる。

おそらく廉人も佐名子さんが気になっているはずだ。

気安く軽い態度で接しているが、佐名子さんを見つめる目は真剣そのもので、彼女に認められたくて、懸命に仕事に取り組んでいる。

あわよくば、伊織より一歩先にと狙っているはずだ。

 
俺だって……ずっと佐名子さんを見てきたんだ、二人には負けられない。

俺の気持ちを伝えたくて、握っていた手をいったん緩め指を絡めなおした。

絡めた指から佐名子さんのぬくもりも感じられる。

俺を認めてくれたあなたと一緒に仕事ができて嬉しいです。

後輩に素直に教えを請う佐名子さんもすごいです。



「チーフ」


「はい?」


「俺 あなたが好きです」


「えっ えぇっ」



手から彼女の体が強張ったのがわかる。

振りほどこうとする手を俺はもっと握り締めた。



『シン 佐名子に惚れるなよ』


小野寺さんに言われたのに、惚れるなと言われれば惚れたくなる。

俺、やっぱりこの人がいいです。

あなたの言いつけを守れそうにありません。

ここにはいない小野寺さんに向けてメッセージを送った。
  



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