ジムノペディ
ドアを開けると、そこにいつもいるはずのドリアンの姿がない。
その奥にあるプライベートルームへ入る。ベッドにドリアンが座っていた。
綾香は、ホッ!としてドリアンの傍へ行くと、その隣に座った。
「おかえり・・・帰ってくると思っていたよ」
綾香は、何故だかわからないけれど、涙が出てきて止まらない。
そんな綾香を、ドリアンはじっと見つめて、いつものように綺麗な手で
その悲しげな涙を、一粒一粒拭う。
そして、その華奢な体を、そっと優しく抱きしめた。
甘い蜜のようなキスを交わすと、
まるでガラス細工に触れるようにそっと
静かに綾香をベッドに寝かせた。
綾香の意識は、そこまでしか憶えていない。
ただなんとなく彼が髪を撫でてくれていたような気がする。
「好きだよ。ア・ヤ・カ・・・」
その一週間後、CM撮影、新聞、雑誌の広告、ファッション雑誌の表紙・・・
ドリアンをイメージモデルにしたPR活動が始まった。
撮影は、全て会社内で行われ、カメラマンとスタイリスト
数人のスタッフしかいない狭い範囲で行われた。
そして、今ではJunの面影すらない、どこから見ても生身の人間に見える彼は
綾香の思惑どおり その端整な顔だちが 世の中の女性たちを忽ち虜にした。
関係者以外、誰も彼を人形とは思わなかったのだ。
(もう・・・ドリアンと外を歩くこともできないのかも。彼は以前よりも顔が知られている。
いつかは人形だということが知られてしまうだろう。
だとしたら人形の彼が、人間のような振る舞いをするのを見られるのは危険なことだ。
こうなることは分かっていたはずなのに・・・)
ふと携帯電話の着信音に気付いて、液晶画面を見ると卓からだった。
綾香は、そのまま携帯を机の上に置くとパソコンを開いた。
最近は こうして卓からの着信を無視することが多い。
彼から受ける精神的に追い詰められるような苦痛が怖かった。
今の卓と、結婚したところで はたして上手くいくのだろうか?
いや・・・上手くなんていくわけがないし、牢獄の生活が始まるだけだ。
考えただけでもゾッとする。
それでも
従うしか選択肢がないのだ。
心では分かっていても 体が言うことをきかない。
世間一般の女性からしたら 高柳卓と結婚するということは
雲の上を歩くような気分になるだろう。
今の綾香は、多くの女性から羨望の眼差しを受けているのだ。
それなのに・・・・。
綾香は、ふと視線に気付く。
ドリアン。
向かいのソファーからじっと綾香の顔を見つめていた。
その澄んだクリスタルガラスの瞳は、瞬きすることはない。
!!!?
微かに笑ったような・・・
綾香は、傍に行くと
「今夜・・・会いましょう」
それだけ言うと部屋を出ていった。
その夜、綾香がプライベートルームへ入っていくと
ドリアンが何かを読んでいた。
「どうしたの?」
「んっ?これ」
ふと見ると、それは小さな頃に大好きだった"ピノキオ"の絵本だ。
父が、誕生日にプレゼントしてくれた一番のお気に入り。
英国製で、ページを開くと立体的に飛び出してくる
とても凝った豪華な絵本だった。
一昨年のPR用のサンプルに使って、持ち帰らずに本棚にしまったままだった。
「すごく・・・綺麗」
ドリアンは目をキラキラさせてページを捲っていた。
「これね、話の内容も素敵なの」
綾香は、丁寧に分かりやすく内容を話してあげた。
ドリアンは、興味深々に聞き入っている。
そして話し終わると、彼がそっと呟いた。
「ピノキオが人間になれてよかった」
でもそれが、ほんの少しだけど切なく見える。
ドリアンは本を閉じると、大切そうに両手で抱えて
ソファーに横になった。
綾香が、ドリアンのサラサラの髪を、そっと撫でてあげると
ドリアンは瞳を閉じて
「とっても・・・心地いいよ・・・でも、ちょっと照れくさい」
そう言うと、腕を顔の上に乗せた。
その瞳から一粒の涙がこめかみを伝って堕ちた。
******************************
綾香が、社長室へ入るとい つものようにドリアンの美しい横顔が目に入った。
静止している彼は、朝陽を浴びてよりいっそう美しかった。
何度見ても息を呑むほどだ。
そして、いつの間にかドリアンと過ごす夜が 何よりも大切な時間になっていた。
夕方になると 夜がくるのを待ちきれない子供のように わくわくしているのだ。
綾香は、ふと机の上の携帯電話に視線を移すと、
着信ライトが点滅している。
それが誰なのか 見なくてもわかる。
(いつまでも無視するわけにはいかないか・・・)
綾香は携帯電話を手に取った。
その瞬間 留守電に切り替わって
着信ライトが消えた。
正直、少しホッとするものの
溜息が落ちた。
****************
(クッ!また留守電か・・・ふざけやがって!)
卓は苛立って携帯電話を乱暴に閉じて机に置いた。
要は、そんな卓の姿を見るのが辛かった。
卓が結婚するのは何よりも嫌だったが
この話が白紙になれば 愛する人がもっと傷つくのだ。
要は彼の生い立ちを全て知っていた。
そして、彼がとても両親想いだということも。
それを思うと やはり結婚だけはしてほしい。
自分だけが耐えれば それで済む事。
そう・・・ただの政略結婚だ。
そこに愛はないのだから。
何度も何度も そう自分に言い聞かせた。
**************
突然、ノックの音がして神崎が社長室へ入ってきた。
「社長・・・おはようございます」
「おはよう」
「今日発売の週刊誌です」
その表紙を見ると、ドリアンの記事らしい見出しが目に入った。
”エステサロンカシオペア”のイメージモデル《ドリアン》!謎に包まれた私生活”
「思った以上に話題になってるわね」
その記事のページを開く。
”分かっているのは、ドリアンという名前だけ。年齢も国籍も不明。
その端整な容姿と、強烈な眼差しで、たちまち女性の心を掴んだ美しい貴公子”
綾香は、満足そうに微笑んだ。
「社長・・・いずれは彼が人形だと・・・」
「ええ、そうよ。でも彼が人間だとは言っていないし、そうなれば
また話題の波がくるわ」
「はぁ.....まぁそうですが」
神崎は、珍しく子供みたいなことを言う綾香が、可笑しかった。
*********************************
夜・・・・・
さっきから いつもよりも早い退社支度をする卓を
要は黙って見つめていた。
今日一日中 恋人の様子を見ていた要は
何かを察知していた。
(おそらく あの女に会いに行くのだろう)
「じゃぁ・・・おつかれさま」
そう言って要に軽くキスすると常務室を出て行った。
(結婚するんだから会いに行って当然なのに)
要は自分を抑えることが出来ず
卓の後を追うように ドアを開けてエレベーターへ向かった。
**********************************
綾香は、全ての社員が退社するのを見届けると
静まり返ったエントランスフロアーのソファーに座った。
初めて彼を見たときに座っていた場所だ。
ここで彼を待つのは、なんとなく気持ちが騒ぐ・・・
まるで、初恋の人を待っている気分のようだった。
一台の車が通り過ぎたかと思うと Uターンしてエントランスの前で停車した。
アストンマーチンから卓が降りてくる。
綾香が、予想外の招かれざる客に自動扉の鍵を解除すると
卓がツカツカと入ってきた。
「なぜ電話に出ない!」
「ごめんなさい。忙しくて・・・」
「まぁ いい。君が結婚する気持ちに変わりないのなら
僕の電話に出なくてもかまわない。ただ式まで1ヶ月ないんだよ!
君と連絡が取れないから式場もこちらで決める。
式の日取りは、2人で話し合ったことにして僕が決めるよ。いいね?」
「ええ」
綾香は、もうどうにでもなれとさえ思った。
「君がそういう態度に出るのなら、僕はもう遠慮しない」
「どういう・・・意味ですか?」
卓は、口元を吊り上げてニヤッと笑うと
「僕のような地位にいたら、愛人がいるのが普通だってことを
君にも理解してもらう。僕の妻になるということを自覚してほしい」
卓は、綾香の苦しむ表情から、彼女が何を考えているのか読み取った。
「父親を悲しませたくないのなら」
「わかっています」
追い詰められたウサギのように、綾香の精神状態は限界だった。
コツコツ・・・・
静かなエントランスフロアーに響く足音。
卓は、その足音の方向を見ると、まるでそこだけパッと明るくなったように
美しい美青年が近づいてきた。
繊細な揺れる髪、強い眼差し、引き締まった口元・・・
これほどまでに完璧な人間を見たことがなかった。
「何か・・・問題でも?」
そう静かに話し掛けてきたドリアンの眼に、いつもの優しさはなかった。
鋭いメスのような眼をして卓を睨んだ。
その瞳に、吸い込まれそうになった瞬間
綾香が急いで二人の間に割って入る。
「あ・・・何でもないの。本当よ。ドリアン」
「ドリアン?」
ドリアンが、立っているのもやっとの綾香を、両腕で抱きかかえると
綾香は 安堵感と同時に、心臓が弾けそうなほど 激しい鼓動を感じた。
「社長は疲れています。今夜はお帰りください」
そう冷ややかに言うドリアンの微笑みに
卓は 思わずゾクッ!とした。
そして、そのまま車へ戻ると、
もう一度、振り返ったが、そこに もう彼の姿はなかった。
その光景を隠れて見ていた北川要は、
アストンマーチンが見えなくなるまで見送ると
ゆっくりと一歩・・・また一歩・・歩き出す。
嫉妬で狂いそうな敵意の矛先は、綾香ではなくなっていた。
その奥にあるプライベートルームへ入る。ベッドにドリアンが座っていた。
綾香は、ホッ!としてドリアンの傍へ行くと、その隣に座った。
「おかえり・・・帰ってくると思っていたよ」
綾香は、何故だかわからないけれど、涙が出てきて止まらない。
そんな綾香を、ドリアンはじっと見つめて、いつものように綺麗な手で
その悲しげな涙を、一粒一粒拭う。
そして、その華奢な体を、そっと優しく抱きしめた。
甘い蜜のようなキスを交わすと、
まるでガラス細工に触れるようにそっと
静かに綾香をベッドに寝かせた。
綾香の意識は、そこまでしか憶えていない。
ただなんとなく彼が髪を撫でてくれていたような気がする。
「好きだよ。ア・ヤ・カ・・・」
その一週間後、CM撮影、新聞、雑誌の広告、ファッション雑誌の表紙・・・
ドリアンをイメージモデルにしたPR活動が始まった。
撮影は、全て会社内で行われ、カメラマンとスタイリスト
数人のスタッフしかいない狭い範囲で行われた。
そして、今ではJunの面影すらない、どこから見ても生身の人間に見える彼は
綾香の思惑どおり その端整な顔だちが 世の中の女性たちを忽ち虜にした。
関係者以外、誰も彼を人形とは思わなかったのだ。
(もう・・・ドリアンと外を歩くこともできないのかも。彼は以前よりも顔が知られている。
いつかは人形だということが知られてしまうだろう。
だとしたら人形の彼が、人間のような振る舞いをするのを見られるのは危険なことだ。
こうなることは分かっていたはずなのに・・・)
ふと携帯電話の着信音に気付いて、液晶画面を見ると卓からだった。
綾香は、そのまま携帯を机の上に置くとパソコンを開いた。
最近は こうして卓からの着信を無視することが多い。
彼から受ける精神的に追い詰められるような苦痛が怖かった。
今の卓と、結婚したところで はたして上手くいくのだろうか?
いや・・・上手くなんていくわけがないし、牢獄の生活が始まるだけだ。
考えただけでもゾッとする。
それでも
従うしか選択肢がないのだ。
心では分かっていても 体が言うことをきかない。
世間一般の女性からしたら 高柳卓と結婚するということは
雲の上を歩くような気分になるだろう。
今の綾香は、多くの女性から羨望の眼差しを受けているのだ。
それなのに・・・・。
綾香は、ふと視線に気付く。
ドリアン。
向かいのソファーからじっと綾香の顔を見つめていた。
その澄んだクリスタルガラスの瞳は、瞬きすることはない。
!!!?
微かに笑ったような・・・
綾香は、傍に行くと
「今夜・・・会いましょう」
それだけ言うと部屋を出ていった。
その夜、綾香がプライベートルームへ入っていくと
ドリアンが何かを読んでいた。
「どうしたの?」
「んっ?これ」
ふと見ると、それは小さな頃に大好きだった"ピノキオ"の絵本だ。
父が、誕生日にプレゼントしてくれた一番のお気に入り。
英国製で、ページを開くと立体的に飛び出してくる
とても凝った豪華な絵本だった。
一昨年のPR用のサンプルに使って、持ち帰らずに本棚にしまったままだった。
「すごく・・・綺麗」
ドリアンは目をキラキラさせてページを捲っていた。
「これね、話の内容も素敵なの」
綾香は、丁寧に分かりやすく内容を話してあげた。
ドリアンは、興味深々に聞き入っている。
そして話し終わると、彼がそっと呟いた。
「ピノキオが人間になれてよかった」
でもそれが、ほんの少しだけど切なく見える。
ドリアンは本を閉じると、大切そうに両手で抱えて
ソファーに横になった。
綾香が、ドリアンのサラサラの髪を、そっと撫でてあげると
ドリアンは瞳を閉じて
「とっても・・・心地いいよ・・・でも、ちょっと照れくさい」
そう言うと、腕を顔の上に乗せた。
その瞳から一粒の涙がこめかみを伝って堕ちた。
******************************
綾香が、社長室へ入るとい つものようにドリアンの美しい横顔が目に入った。
静止している彼は、朝陽を浴びてよりいっそう美しかった。
何度見ても息を呑むほどだ。
そして、いつの間にかドリアンと過ごす夜が 何よりも大切な時間になっていた。
夕方になると 夜がくるのを待ちきれない子供のように わくわくしているのだ。
綾香は、ふと机の上の携帯電話に視線を移すと、
着信ライトが点滅している。
それが誰なのか 見なくてもわかる。
(いつまでも無視するわけにはいかないか・・・)
綾香は携帯電話を手に取った。
その瞬間 留守電に切り替わって
着信ライトが消えた。
正直、少しホッとするものの
溜息が落ちた。
****************
(クッ!また留守電か・・・ふざけやがって!)
卓は苛立って携帯電話を乱暴に閉じて机に置いた。
要は、そんな卓の姿を見るのが辛かった。
卓が結婚するのは何よりも嫌だったが
この話が白紙になれば 愛する人がもっと傷つくのだ。
要は彼の生い立ちを全て知っていた。
そして、彼がとても両親想いだということも。
それを思うと やはり結婚だけはしてほしい。
自分だけが耐えれば それで済む事。
そう・・・ただの政略結婚だ。
そこに愛はないのだから。
何度も何度も そう自分に言い聞かせた。
**************
突然、ノックの音がして神崎が社長室へ入ってきた。
「社長・・・おはようございます」
「おはよう」
「今日発売の週刊誌です」
その表紙を見ると、ドリアンの記事らしい見出しが目に入った。
”エステサロンカシオペア”のイメージモデル《ドリアン》!謎に包まれた私生活”
「思った以上に話題になってるわね」
その記事のページを開く。
”分かっているのは、ドリアンという名前だけ。年齢も国籍も不明。
その端整な容姿と、強烈な眼差しで、たちまち女性の心を掴んだ美しい貴公子”
綾香は、満足そうに微笑んだ。
「社長・・・いずれは彼が人形だと・・・」
「ええ、そうよ。でも彼が人間だとは言っていないし、そうなれば
また話題の波がくるわ」
「はぁ.....まぁそうですが」
神崎は、珍しく子供みたいなことを言う綾香が、可笑しかった。
*********************************
夜・・・・・
さっきから いつもよりも早い退社支度をする卓を
要は黙って見つめていた。
今日一日中 恋人の様子を見ていた要は
何かを察知していた。
(おそらく あの女に会いに行くのだろう)
「じゃぁ・・・おつかれさま」
そう言って要に軽くキスすると常務室を出て行った。
(結婚するんだから会いに行って当然なのに)
要は自分を抑えることが出来ず
卓の後を追うように ドアを開けてエレベーターへ向かった。
**********************************
綾香は、全ての社員が退社するのを見届けると
静まり返ったエントランスフロアーのソファーに座った。
初めて彼を見たときに座っていた場所だ。
ここで彼を待つのは、なんとなく気持ちが騒ぐ・・・
まるで、初恋の人を待っている気分のようだった。
一台の車が通り過ぎたかと思うと Uターンしてエントランスの前で停車した。
アストンマーチンから卓が降りてくる。
綾香が、予想外の招かれざる客に自動扉の鍵を解除すると
卓がツカツカと入ってきた。
「なぜ電話に出ない!」
「ごめんなさい。忙しくて・・・」
「まぁ いい。君が結婚する気持ちに変わりないのなら
僕の電話に出なくてもかまわない。ただ式まで1ヶ月ないんだよ!
君と連絡が取れないから式場もこちらで決める。
式の日取りは、2人で話し合ったことにして僕が決めるよ。いいね?」
「ええ」
綾香は、もうどうにでもなれとさえ思った。
「君がそういう態度に出るのなら、僕はもう遠慮しない」
「どういう・・・意味ですか?」
卓は、口元を吊り上げてニヤッと笑うと
「僕のような地位にいたら、愛人がいるのが普通だってことを
君にも理解してもらう。僕の妻になるということを自覚してほしい」
卓は、綾香の苦しむ表情から、彼女が何を考えているのか読み取った。
「父親を悲しませたくないのなら」
「わかっています」
追い詰められたウサギのように、綾香の精神状態は限界だった。
コツコツ・・・・
静かなエントランスフロアーに響く足音。
卓は、その足音の方向を見ると、まるでそこだけパッと明るくなったように
美しい美青年が近づいてきた。
繊細な揺れる髪、強い眼差し、引き締まった口元・・・
これほどまでに完璧な人間を見たことがなかった。
「何か・・・問題でも?」
そう静かに話し掛けてきたドリアンの眼に、いつもの優しさはなかった。
鋭いメスのような眼をして卓を睨んだ。
その瞳に、吸い込まれそうになった瞬間
綾香が急いで二人の間に割って入る。
「あ・・・何でもないの。本当よ。ドリアン」
「ドリアン?」
ドリアンが、立っているのもやっとの綾香を、両腕で抱きかかえると
綾香は 安堵感と同時に、心臓が弾けそうなほど 激しい鼓動を感じた。
「社長は疲れています。今夜はお帰りください」
そう冷ややかに言うドリアンの微笑みに
卓は 思わずゾクッ!とした。
そして、そのまま車へ戻ると、
もう一度、振り返ったが、そこに もう彼の姿はなかった。
その光景を隠れて見ていた北川要は、
アストンマーチンが見えなくなるまで見送ると
ゆっくりと一歩・・・また一歩・・歩き出す。
嫉妬で狂いそうな敵意の矛先は、綾香ではなくなっていた。