もっと美味しい時間
マンションのエントランスホールに入ると、足の速度を緩める。
あたりを見渡すと、まるで高級ホテルのラウンジを思わせるその一角に、観葉植物に囲まれてソファーが設置されているのを見つけた。マンションの入れ口から見えにくい一番奥まで行くと、ふかふかのソファーに身を預けた。
目を閉じると、さっきまでの車の中での出来事を思い出す。
……櫻井京介……
今まで、私の周りにはいないタイプの人だ。何を考えているのか、全く分からない。相手の気持も考えないで、好き勝手したい放題。
人を馬鹿にするような嫌味なことを言ったかと思えば、冗談か本気か分からない人の心を弄ぶようなことを言ったり……。
ほんと、勘弁して欲しい……。
あんな人がそばにいたら、落ち着いて慶太郎さんとの時間が過ごせるか、心配でしょうがないよ。
早く慶太郎さんに逢いたい……。
この不安な気持ちを、慶太郎さんの温もりで消し去って欲しい。
閉じていた目を開けると、ふぅ~っと小さく息を吐いた。
櫻井京介の訳の分からない行動に乱されていた気持ちが、落ち着きを取り戻す。
投げ捨てるように置いてあった荷物をまとめ手に取ると、観葉植物の隙間から櫻井京介がいないか確かめた。
私がここにいる間、誰かがエントランスホールに入ってきた気配は感じなかった。でもこれだけの時間ここに現れないということは、駐車場からは別の入口があるのかもしれない。
そうであることを願い、足早にエントランスホール内にある二番目の自動ドアの横まで行く。
さすがは高級マンション。セキュリティ面もしっかりしていて、入り口は二重ドア。二番目のこのドアは、鍵がなければ入れない。それも最新式のタッチタイプ。ピッキング対策らしい……。
事前に教えてもらっていた場所に鍵を当てると、ピッと音がして自動ドアが開いた。
来ることを楽しみにしていた、慶太郎さんの新居がもうすぐそこ。逸る気持ちを抑えながらエレベーターに近づくと、ゆっくりと上へ行くボタンを押した。