もっと美味しい時間  

「あのさぁ、そう意識してられると、こっちもやり難いんだけど。別に百花のこと言った訳じゃないし」

「てっ言うか、私のこと百花になってるし……」

ジロッと怪しい目で京介を見ると、面倒臭そうに頭を掻いた。

「あぁ~もうっ!  お前だって俺のこと京介って呼び捨てだろっ。だったら俺だって呼び捨てで何が悪いっ!! それにだ、慶太郎の女に手を出すほど、俺は女に飢えてない。分かったかっ?」

「は、はい……」

自意識過剰だったのでしょうか……。本気で鬱陶しがられてるような気がする。
何か違う意味で、今晩が憂鬱になってきた。


すぐにタクシーも見つかり、慶太郎さんと京介の住むマンションへと直行する。
市街地を抜けてすぐすると、マンションが見えてきた。
独身社員が住むマンションのエントランス前に、誰かが立っている。目を凝らしてよく見てみると、それはーー

「慶太郎さん……」

大好きで愛しくて、私の身体は抱きしめて欲しいと思っているのに、心は慶太郎さんを拒否していた。
今会ったって、何を話せばいいのか正直分からない。
京介も慶太郎さんの存在に気づいたのか、すぐにタクシーを止めた。

「ここで降りるぞ」

その言葉に頷くと、先にタクシーを降りる。
京介が支払いを済ませるのを待っていると、ハザードを点滅させているタクシーに気づいた慶太郎さんが、こっちに向かって歩いてきた。

「京介っ、どうしよう。慶太郎さんが……」

どうしていいか分からず、あたふたする私の肩を、京介がそっと掴んだ。

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