もっと美味しい時間
「こんなとこで悪かった。リビングで話そう」
私が何も答えなかったから、泣きそうになって身体を震わせたから、抱きしめられたことが嫌だったと勘違いされたのかなぁ……。
先にリビングへと向かう慶太郎さんの背中が、やけに冷たく感じるよ。
自分のしてることに後悔ばかりして、何やってるんだろう、私……。
本当は言いたいこといっぱいあるのに、何か一言言ってしまうと慶太郎さんを責めるようなヒドいことを言ってしまいそうで怖い。
やっぱり今日は無理。こんな気持ちのまま、慶太郎さんと夜を過ごすことなんて出来ないよ。
玄関で止まったままだった足が動き出すと、リビングへは向かわず寝室へと向かった。
部屋の隅においてある旅行用バッグを開け服や下着を掴むと、小さな袋に詰め込んだ。
「何やってる?」
いつの間に来ていたのだろう。振り向くと、寝室の入り口に慶太郎さんが立っていた。
何も悪いことをしてるわけじゃないのに、小さな袋を持つ手が震え、罪悪感に包まれる。
「慶太郎さん、ごめん。今晩は京介のとこに泊まる」
「行かせない」
そう言うと腕を組んでドアにもたれ掛かり、長い足を片方伸ばして入り口を塞いだ。
「お前をそんな気持ちにさせたのは俺の責任だ。悪いと思ってる。けど、いつまでも逃げてどうする? それは何の解決にもならないだろっ」
私は何も悪くないのに、そんな言い方ヒドいっ!
慶太郎さんの私を責めるような物言いに、とうとう自分の中の何かが弾けてしまった。