もっと美味しい時間
足音で、慶太郎さんがすぐ横まで来たのが分かる。
「ごめんな、百花。今回の件は、全部俺が悪いんだ。俺のことはどれだけ責めてもいいけど、自分のことは責めるな」
私の頭を何度も撫でると、そのままの私を抱きしめた。
ずっと慶太郎さんに抱きしめてほしい、触れられたいと思っていたのに、やっぱり素直には喜べない。顔も上げれないままでいると、はぁ~と小さく息を吐いた慶太郎さんが、私を抱きかかえ立たせた。
「とにかくリビングに行くぞ。歩けるか?」
うんっと頷くと、肩を抱かれたまま歩き出す。
私をソファーに座らせると慶太郎さんは私の前に跪き、目線を合わせた。
少し怖いくらい真剣な眼差しに、私の目は囚われてしまう。
「俺の話をちゃんと聞いてくれるか?」
「はい……」
あの時の話だよね。聞きたくないけど、聞かなきゃ先に進めないよね。
覚悟を決めると、手に拳を握る。
「百花も知ってるように、俺と綾乃は学生時代に付き合ってた。しかし卒業後、離れて暮らすようになった俺たちの関係は自然消滅した。でもそう思っていたのは俺だけで、綾乃は俺が大阪に戻ってくるのを待ってたんだ。確信もないまま……」
それほど、綾乃さんは慶太郎さんが好きなんだ。
その事実に負けそうで、目を伏せそうになる。
「俺の目をちゃんと見てろ」
私の心を読まれたのか、釘を差される。
「こっちに転勤なって秘書課にいた綾乃と再開してから、何度も復縁を迫られた。あいつと自然消滅してから六年。もうお前に心はない、今は好きな人もいて婚約もしたと言っても、なかなか聞き入れてもらえなかった」
彼の目を見れば分かる。本当に、そうだったんだろう。
慶太郎さんの真摯な態度に、胸に何かが込み上げてきた。