もっと美味しい時間
「そんな時、綾乃はお前と出会った。そして俺の恋人だと知ると、綾乃の人一倍負けず嫌いのプライドが、より一層俺への執着心を強めていった」
「そりゃそうだよね。慶太郎さんの恋人が、こんな何の取り柄もないような、ちんちくりんな女じゃ……っ」
身体を大きく揺さぶられる。
「なぁっ!! 何の取り柄もないとか言うなっ。お前にはいいところがいっぱいあるだろっ。もっと自信持て、俺に愛されてるって自信を持てっ!!」
身体を揺さぶられたこと、怒鳴られたこと、まだ愛されてると分かったこと。
すべてのことに驚き呆然としていると、その身体をおもいっきり抱きしめられた。
「百花、本当にごめん。綾乃とキスしてるところ見て辛かったよな。何を言っても言い訳にしか聞こえないと思うけど、聞けるか?」
慶太郎さんの胸で、コクリと一度だけ頷く。
「避けようと思えば避けられたキスを、俺はわざと避けなかった。勝手かもしれないが、キスすれば、俺の心が綾乃には無いことを分かってもらえると思ったんだ。でもそれは、俺の独り善がりの考えだった」
小さな声で「馬鹿だよな……」と言うと、私の首筋に顔を埋めた。
30にもなった大の大人が、自分のしたことを恥じて身体を震わせている。
慶太郎さんは慶太郎さんで、私のために毅然とした態度で綾乃さんに向かい合っていたんだ。その事実が分かっただけで、今はいい。許す許さないは、またこの後の話だ。
抱きしめられたままだらんと下ろしていた腕を、慶太郎さんの背中に回す。ぎゅっと抱きしめると、慶太郎さんの身体がぴくっと反応を見せた。
「もういいよ、慶太郎さん。話しはよく分かった。だから、顔を見せて」
耳元でそっと囁くように伝えると、ゆっくりと顔を上げた。