もっと美味しい時間
『音も立てずに入って来ないでよっ』
いつもならそう言う私も、今日は黙って目線を外した。
真横にしゃがみ込む気配を感じると、少し距離をとるためお尻を動かす。
するとすぐに慶太郎さんも移動する。
何度同じ事をしてもついてくる慶太郎さんに、可笑しくなってしまった。
「しつこいね」
「そう? 百花のそばにいたいだけ」
「……」
「今日は頑張ってくれるんじゃなかったのか?」
今でも、その気持ちには変わらない。
ただ、少し自分に自信がなくなっただけ……。
いつもより濃いめのメイクなんてするんじゃなかった。
慣れない自分の顔に、負けてしまうなんて情けない。
「ごめんね」
「何が?」
「何がって言われると、よく分からないけど……。私でごめんねって感じかな」
「何だそれっ!? ほんとにお前は面白いよな。そういうところも含めて、全部の百花が好きなんだ。魅力いっぱいじゃないか」
魅力いっぱい……。
聞いてたんだ、私のひとりごと。
「綾乃には悪いけど、あいつにもう気持ちはない。ただの友人、仕事仲間、それだけだ。でもどれだけそのことを伝えても、あいつは聞く耳を持たない」
そう言って、私を見つめる。
「情けないけど、もう百花に頼るしかないんだ。昨日、あんな場面見せておいて虫のいい話だけどな」
項垂れた慶太郎さんが愛しくて……
自分から、ちゅっとキスをした。