もっと美味しい時間
「慶太郎さん、お酒飲んでる?」
「あ、あぁ……。営業の人間も何人か付きあわせたからな。打ち合わせが終わった後、全員に奢ったよ。大散財だ」
なんて困った顔をしながら、私の肩を軽く抱いた。
支社長になったんだから日常茶飯事とはいかないだろうけど、仕事終わりに会社の人間と飲むことは当たり前。特に慶太郎さんは、部下を大切にするからね。
でも今日に限っては、何だか異常に腹が立ってしょうがなかった。
ムっとして慶太郎さんの腕からすり抜けると、何も言わずにキッチンへと歩き出す。
「お、おいっ百花っ」
急な私の変化に戸惑いを見せながら、慶太郎さんが後を追ってくる。それでも返事をしない私の腕を強く掴んだ。
「何いきなり機嫌悪くなってんだよっ」
「悪くなってないです」
「言葉遣い、敬語だし」
「気にしないで下さい」
「百花っ!! 本気で怒るぞっ」
「どうぞ、ご勝手に。慶太郎さん、お酒飲んできたなら、もう飲まないですよね? 私今から、ひ・と・り、で飲むので、あっち行ってて下さいっ!」
一人を強調して伝えると冷蔵庫から、冷やしておいたビールと瓶に入っているピクルスを取り出した。
一緒にカナッペを作ろうと思っていたけど、もう面倒くさい。瓶の蓋を開けると皿にも移さず、赤パプリカのピクルスを手掴みで口に放り入れた。その手でビーリのタブを開けると、一気に半分飲み干す。
「う~ん、美味しいっ」
嘘をついた。
ビールもピクルスも美味しいはずなのに、何故だか鼻の頭がツーンとして、味が全く分からない。
そこで、自分が今にも泣き出しそうなこと気づく。