もっと美味しい時間  

「慶太郎さん、お酒飲んでる?」

「あ、あぁ……。営業の人間も何人か付きあわせたからな。打ち合わせが終わった後、全員に奢ったよ。大散財だ」

なんて困った顔をしながら、私の肩を軽く抱いた。

支社長になったんだから日常茶飯事とはいかないだろうけど、仕事終わりに会社の人間と飲むことは当たり前。特に慶太郎さんは、部下を大切にするからね。
でも今日に限っては、何だか異常に腹が立ってしょうがなかった。
ムっとして慶太郎さんの腕からすり抜けると、何も言わずにキッチンへと歩き出す。

「お、おいっ百花っ」

急な私の変化に戸惑いを見せながら、慶太郎さんが後を追ってくる。それでも返事をしない私の腕を強く掴んだ。

「何いきなり機嫌悪くなってんだよっ」

「悪くなってないです」

「言葉遣い、敬語だし」

「気にしないで下さい」

「百花っ!! 本気で怒るぞっ」

「どうぞ、ご勝手に。慶太郎さん、お酒飲んできたなら、もう飲まないですよね? 私今から、ひ・と・り、で飲むので、あっち行ってて下さいっ!」

一人を強調して伝えると冷蔵庫から、冷やしておいたビールと瓶に入っているピクルスを取り出した。
一緒にカナッペを作ろうと思っていたけど、もう面倒くさい。瓶の蓋を開けると皿にも移さず、赤パプリカのピクルスを手掴みで口に放り入れた。その手でビーリのタブを開けると、一気に半分飲み干す。

「う~ん、美味しいっ」

嘘をついた。
ビールもピクルスも美味しいはずなのに、何故だか鼻の頭がツーンとして、味が全く分からない。
そこで、自分が今にも泣き出しそうなこと気づく。
< 14 / 335 >

この作品をシェア

pagetop