もっと美味しい時間  

せっかく慶太郎さんと二人で飲もうと思っていたのに何で一人で、それもキッチンで飲んでるのよっ、私っ!!
もっと素直になって、一緒に飲みたかったことを伝えればいいじゃないっ。
それができなくて慶太郎さんに八つ当たりするような態度をとった挙句、泣きそう? 
自分勝手にも程があるでしょっ!!
自分にそう言い聞かせても、私の弱い心を奮い立たせることはできなかった。
涙が勝手に溢れ出し、鼻水まで垂れてくる始末。それをズズーッと啜る。

「今度は何で泣いてるんだよ、まったく……」

呆れたようにそう言うと、後ろから私の身体を抱きしめた。

「もしかして、一緒に飲もうと思って、いろいろ準備してくれてた?」

泣き声を聞かれたくなくて、一度だけ頷く。
右手には胡瓜のピクルス、左手には缶ビールを持ったまま……。
そんな私をクルッと反転させると、真っ赤になっている目から流れ出る涙を、指でそっと拭った。

「これ、食べさせて」

私の右手首をぐっと上げ、胡瓜のピクルスを持った手を振ってみせる。
顔を見ないまま、それを慶太郎さんの口に入れた。

「やっぱり百花のピクルスは旨いなぁ」

旨いと褒めてくれたのに、どうしてかさっきまでよりも涙が溢れ出してきてしまう。

情けない……。

きっと大阪に来てからの慶太郎さんは、激務続きの日々を送っているに違いない。大阪支社のトップとしての気苦労も絶えないだろう。
だからこそ家に帰って来てからは、気を使わずゆったりとした気持ちで過ごしたいはずだ。

なのに、私ときたら……。



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