もっと美味しい時間  

駅に到着し改札を抜けると、タクシー乗り場へと向う。
自分一人の時はバスを使うのだけど、今日は慶太郎さんが一緒。ここは奮発してタクシーを使うしかないでしょっ!
慶太郎さんの手を引きズンズン歩いていると、タクシー乗り場を少し過ぎたところに見覚えのある車が停まっていた。

ま、まさかね……。

一瞬頭に過ぎった顔をエイっと吹き飛ばし、タクシー乗り場に並ぶ。
慶太郎さんを見つめ、ニコッと笑いかけたその時__

「百花ーっ!!」

駅前広場に響き渡る、私の名前を呼ぶ女性の声。
こ、この声は……。
考えるまでもない。今この駅で、百花と呼ぶのは一人しかいない。
不安にかられながら、ゆっくりと振り向くと……。

嫌な予感的中!

満面の笑みをたたえた母が、大きく手を振っていた。

「お母さん?」

慶太郎さんの問いに、小さく頷く。
もう諦めるしかないよね……。
慶太郎さんの手をギュっと握り直すと、母に向かって歩き出す。
すると、運転席から父も姿を現した。

「お、お父さん?」

これには慶太郎さんも驚いた様子で、顔色を変えた。
駅に降り立った時点で、彼女の両親に遭遇する彼氏。きっとまだ心構えが出来てなかったに違いない。
申し訳なく思いごめんねと言おうとしたら、握っていた手を離した慶太郎さんが凛とした態度で両親の前に立った。




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