もっと美味しい時間
「はじめまして。百花さんとお付き合いをさせていただいております、東堂慶太郎と申します」
そう言うと、深々と頭を下げた。
「け、慶太郎さんっ、もう顔上げて」
慌てて身体を揺さぶっても、一向に頭を上げない慶太郎さん。
困って母の顔を見ると、クスクスと笑っている。
きっと面白がっているに違いない。趣味の悪い母だ……。
「東堂さん。どうぞ顔を上げて下さい」
父がそう言うと、やっと顔を上げてくれた。
ホッとひと安心して、慶太郎さんと肩を並べる。
「うわぁ~、東堂さんって背が高いのねぇ~。百花がちっちゃな子供に見える」
ウフフ……だって。
今からこの調子じゃ、この後が思いやられるよ。
溜め息交じりに父を仰ぎ見て助けを求めても、いつの間にやら母と良い感じ。
分かっていたこととはいえ、会っていきなりじゃ身が持たない。
「さぁ二人とも乗った乗ったっ」
この歳でこの色というような真っ赤な車に乗り込むと、これもいつものことながら結構なスピードで走り出す。
「慶太郎さん、ごめんね」
母たちにバレないように小声で謝り、そっと手を握る。
「何が?」
「恥ずかしい両親で……」
「恥ずかしい? どこが? 仲が良くて羨ましいよ。百花のご両親みたいな夫婦になりたいな」
ニヤリと笑い身体を寄せ、カプッと耳朶を喰んだ。
「いやんっ……」
おぉぉぉぉーっ!! 思わずエッチぃ声出してしまったっ!!
「いやん?」
父がその声に反応する。
「いやいや、この景色いいなぁ~と思って……」
「新緑がキレイな時期だからな」
ふぅ~、良かった。バレてないみたい。
慶太郎さんをキッと睨むと、手の甲をきゅっと抓った。