もっと美味しい時間  

実家に到着すると、まず全部の部屋の窓を開け放つ。
梅雨時期の天気のいい日はこうすることが、我が家の決まりだった。
自然の爽やかな風が、部屋のジメッとした空気を洗い流していく。

「百花。荷物は一番奥の部屋に持って行きなさい」

「はーいっ」

玄関で待っていた慶太郎さんを迎えに行くと、キョロキョロと部屋や庭を覗いていた。

「慶太郎さん? どうかしたの?」

「いや、古民家って初めてでさ。子供の頃からマンション住まいだったから、こういう雰囲気いいなと思って」

「そうなんだ。一泊しかできないけど、田舎の暮らしを味わってね」

左手で荷物を持つと、右手を慶太郎さんに差し出した。
ふっと蕩けるような笑顔を私に向け、「お邪魔します」と言って家に上がる。差し出してる右手に慶太郎さんの左が絡まる。その手を引っ張り奥の部屋まで行くと、ゆっくりと扉を開けた。
一瞬、慶太郎さんが息を呑んだのを感じる。

「すごい景色だな……」

この部屋は、お客様が来た時に使ってもらうゲストルーム。壁一面に大きな窓があり、この辺りでは有名な山が凛々しくそびえ立っているのが見える。
この景色を、慶太郎さんに見せたかった。

「気に入ってくれた?」

「あぁ、しばらく見ていたい気分だよ」

良かった……。天気が悪かったら、こんな綺麗な景色は見せてあげられなかっただろう。
これも日頃の私の行いが良いから、神様が天気にしてくれたんだよね?
なんて勝手なことを考えていると、不意に身体を抱きしめられた。

「け、慶太郎さん?」

「俺をここに連れてきてくれて、ありがとうな」

「そんな……。ありがとうって言うのは、私の方だよ。慶太郎さん、一緒に実家に来てくれてありがとう。父も母も、すごく喜んでるよ」

キュッと抱きしめ返すと、慶太郎さんも強く抱き返してくれた。


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